「ねえ、それとってくれない?」
「いや、完全にあーたの方が近いから」
「何?とってくれないの?」
「・・・はい、どうぞ」

なんで私はこんなことになってるんだろう。いつから私はこんなことをするようになった
んだろう。なんかもうおかしい。何がおかしいって全てがおかしい。むしろ、なんで私の
隣にコイツがいるんだ。

「なんでって同じクラスだからでしょ?」
「(さり気に心よんだな今・・・)」
「慣れてよ、これからずっと一緒にいるんからさ、フフッ」

一緒になんていたくない。いたくない。とか思ったりすると、幸村が笑って、なんかいっ
た?っていってきた。何もいってません心読まないでくれますか。

「そういえばさ」
「はい、なんでしょう」
「なんでそんなに遠くに座ってるの?」

ニコニコ笑う幸村は本当に怖いと思う。私は幸村の5mはなれたところに座っている。ちな
みにここはお昼時の中庭で、誰も人は来ない(いっそ誰かきてくれればいいのに)。

「こないよ、だって俺が誰かここに来させるわけないじゃない?」
「・・・え、あ、はい?」
「一緒にいるためにココを選んだのに、誰かに邪魔させるとでも思ってるの?」

フフフッと笑う幸村はマジで恐い。むしろお前はなんかの術でも使ったのか。邪魔させな
いなんて、むしろ邪魔してほしいくらいだ。

「ねえ、その卵焼きおいしそうだね、くれない?」
「・・・・はい、どうぞ」
「やけに素直だね、フフッ」
「逆らうと殺されそうだからね」
「・・・素直すぎるのも困り者だね?」

ぎゅうっ、とほっぺをつねられる。痛いイタイイタイ、のびる!ほっぺがのびる!マジで
痛いから!止めてください幸村クン!

「フフッ、ほっぺって伸びるのかな」
「い゛だい゛い゛・・・・!」
「試してみようかな?」

やめてください幸村クン!マジで痛いです。ほっぺが死にます。マジで死にます。という
かそのキレイなお顔からこんな強い力がでるなんて凄いですって。ある意味恐いです幸村
クン。

「っていうかなんでクンつけてるの?クン付け、すると気持ち悪いよ?」
「ずい゛まぜん゛・・・!」
「どう?伸びた?」
「ううう・・・」

やっと離してくれたほっぺ。超赤くなってる。本気で痛い。まだヒリヒリする。伸びた?
ときかれてもわからないですって。っていうか何そんな近くによってきてるんですか。

「え?スキンシップ」
「いらないですそんなのっていうか私の心読まないで下さいよ・・・!」
「なんで敬語なの?あ?跡部の景吾じゃないからね?」
「わわわかってますって!」

そんなこと百も承知です幸村クン・・じゃなかった、幸村。なんで敬語かなんて幸村が恐
いからに決まっているじゃないですか。

「なんかいった?」
「いえ、なんもいってないです」
「だから、敬語やめてくれる?」
「は、はい・・じゃなかった、うん」

敬語をやめるってちょっと難しい話だと思った。幸村はクスクス笑っている。なんですか、
そんなに私の脅えた表情が楽しいですか。

「うん、楽しい」
「ずいぶんハッキリいうんだね・・」
「っていうかね、うん、物凄くかわいいよ」
「冗談は行動だけにしてください」
「なんかいった?」
「いえ、なんも」

ニコニコ笑ってるようにみえても、今眼が笑ってなかった。恐い。ぐわしっ!と頭をつかま
れる。なんだ。なんだ幸村。私ケンカは弱いぞ。っていうかむしろ幸村に勝てるやつなんて
いないと思う。すると幸村の顔が近づいてくる。うん。キレイだよ幸村の顔。性格ももうちょ
っとキレイだといいのに・・いえ、なんでもないです。

「ねえ」
「な、に?」
「俺さ、好きだよ?」
「な、にが?」
「え?なにがって、勿論、君が」

幸村の影と私の影が重なった。っていうか幸村は私に何をしてるんだろう。後頭部に手を回
されて。力強く、幸村の唇に私のをつける。

「んっ・・・」

幸村の舌が私の中に入ってくる。なんだなんだ、何がしたいんだ幸村は。幸村に押されなが
らも私は必死に抵抗を続けるけど、幸村は離してくれない、むしろ強くなってる。

「んんっ・・ゆ・・きむら・・・!」

やっと離してくれた。私の息は途切れ途切れだけど、幸村は全然へっちゃらっぽい。

「何すんのさ・・・!」
「何って、キス」
「わかってるから!なんでこんなことすんの!」
「好きだからした、それだけだよ」

フフフッと笑う幸村を、私はこれ以上恐く思った事は無かった。そして、幸村は私の頬にそっ
と触って、ニッコリ笑って、

「俺と付き合って、くれるよね?」

それは有無を言わさず笑みで、とてもキレイで。私は顔を真っ赤にして、何もいえなくなっ
てしまった。



そして一ヵ月後、私は幸村と手を繋いで一緒に帰っているのである。





魔王と








(私って多分立海一の不幸の少女だと胸を張っていえる気がする)