テニスをしている彼の手は、

きっと私が想像する以上に、

大きい手なのかもしれない。




「宍戸の手?」
「そう、宍戸の手」
「なんでそんなもんが気になんだよ」
「なんとなく」

はあ?という顔をした向日。お前その顔かわいくない。私の席は向日の席の後ろだったりする。
向日は男子テニス部レギュラーで人気がある、らしい。私にとって向日はちっちゃくて面白くて
オカッパであのテニス部の中では一番カワイイヤツだと思っている。そして、多分一番仲のいい
男子友達だとも思っている。仲がいいだけで、恋愛はまた別物。

私は向日と同じ部活の宍戸に恋をしている。

「大体手なんてみんな一緒だろ?」
「一緒じゃないもん」
「なんで」
「だってみて、私の手、ちっさいでしょ?」
「女子なんて普通そんなもんじゃねぇ?」
「ううん、私の友達私よりおっきいの。かなり。向日だって手ちっさいと思うよ?」
「お前よりおっきいぜ?」
「そりゃ私女の子だもん」

向日はちょっと嫌そうな顔したけど、すぐにため息をついた。なんだなんだ、遠まわしにチビっ
ていったことにムカついたのか?

「・・・・・・・・・・・・で?なんで宍戸の手なんだよ」
「だからなんとなく」
「そのなんとなくの理由は」
「何となくに理由なんてありません」
「ウソつけ」
「・・・・・・・・・・・なんか、自分の手をみてたら、宍戸の手はどんなんだろうって」
「あー・・」
「そして後ろから岳人の手みて、あーちっさいなぁって、宍戸はどんくらいだろうなぁって」
「お前、余計な事考えてんじゃねぇよ。っつかさりげなくバカにしたよな、今」
「してないしてない」
「いやしてるよな、マジしてるよな?クソクソ!」

あーもう向日はうるさいなぁ。でも向日チビっていわれること嫌がってるからな。まあ普通の人
はあまりいい気はしないだろうけど。ましてや向日、私よりチビだし。あ、コレ禁句だっけかな?
とりあえず、宍戸の手の大きさが気になったのだ。ちなみに私と宍戸の関係性といえば別に普通
に話すぐらい。いわば知り合い以上親友未満、とりあえず友達なのか?

「っつーか、お前さー告白すりゃーいいのによ」
「はぁ?私はね、未来安定がすきなの」
「は?」
「付き合えるわけでもない、友達にも戻れない、なら告白しないほうがマシだと思えない?」

私がそう向日に聞けば、向日はため息をどっとついた。あ、それ超失礼。私向日よりバカみたい
じゃん。こんなんでも私向日より成績いいし、バカじゃないし、チビでもないし。あ、これ禁句
か。またいっちゃった。でもなんだよそのため息は。本当に失礼だなお前!

「お前さ、そんなことしてっと、宍戸誰かにとられるぞ」
「誰かにとられるって、私のモノじゃないもん」
「いやそうだけどよ、でもやっぱさ、俺はお前を友達と思ってるし、宍戸も友達だし、どうせく
 っつくならお前と宍戸がいいわけよ、わかる?」
「・・・わかる、けど」
「わかるならさっさと告白して宍戸とラブラブしろよな」
「それが出来たら苦労しないんだってば・・」
「苦労もなにも、お前はまだ何もしないうちからそんなことばっかいってるだけだろ?」

向日は机に手を置いて立ち上がる。その顔は呆れた顔。ため息をついて、

「俺は努力もしないのに無理とかいうやつ、好きじゃねぇよ」
「・・・むか、ひ?」
「努力して、もしフられてから弱音はけよ。まだ何もいってねぇのに弱音なんか吐くんじゃねぇ」
「・・・ごめん・・」

私がうつむくと、向日はまたため息をついて、私の頭を撫でた。私が上を見上げれば、向日はちょ
っと笑って、

「ワリィな、言い過ぎた」
「・・・・・・・・・うーうん」
「そーだよな。恐いよなぁ、うん。俺お前の気持ち、もう少し考えるべきだったわ」
「・・私も、やろうとする前から無理って決め付けてたから。でも、宍戸モテるし」
「まーな、確かにモテるな。でも跡部や侑士と違って、別に女好きってタイプでもないぜ?逆に、
 あんま興味ないみたい────あ、別にお前に興味がないってわけじゃなくて!な?女自体に、
 それほど関心もってねぇんだよ」

向日が私の悲しそうな顔みて訂正した。いや、うん。わかってたけどね。宍戸がそういう女の子
に興味ないっていうのは。だって、まぁ、宍戸だし。でも、そんな宍戸だから、スキになったん
だし、さ。だから、仕方ないと言えば仕方ない。

「だから、とりあえず頑張ろうぜ?な?」
「・・・・・・・・・うん」

私が気のない返事をすると、仕方ねぇな、と向日が苦笑する。私がえ?と向日をみれば、

「お前今日放課後なにかあるかよ?」
「なにもないけど・・」
「じゃぁ今日学校おわったらココでまってろよ?」
「・・・え?なんで?」
「なんでも」

向日はニヤニヤと笑う。なんだよ、もう。ちょっと気持悪いぞ。そのとき丁度チャイムがなって、
向日は前を向いてしまった。いつもならそのままなのに、変なの。









「・・・で、なんなのさ、一体」

放課後しっかりまってろよ、と言い残してさっさと教室を出て行ってしまった向日。自分は部活い
くとかなんとかで。ちょっとちょっと、私の立場はどうなるのさ。一体何をしたらいいのか全くわ
からず、ただ言われたとおりにココで待っている。私は一体何を待っているんだろう。そもそも私
は何をしているんだろう。考えれば考えるほど、一体向日がなにをしたいのかわからなくなってき
た。そのとき、ガラッという音が聞こえた。ドアの音だろう。ドアのほうを向いて見ると、そこに
は信じがたい人物がいた。

「し、しど・・・?」
?何やってんだよ」
「宍戸こそ・・・何やってんの?」

来たのは宍戸だった。ドキドキしながら言葉をつむぐ。きっと私の顔、真っ赤だよ。っていうか本
当に何してんの。忘れものとりにくるにしても、ここは宍戸の教室じゃないし。っていうか部活は?
宍戸は凄い部活に一生懸命で、私はそんなところが大好きで。いや、勿論全部すきなんだけど、で
もなにより部活に一生懸命に取り組んでる宍戸が一番大好きだった。だから、そんな宍戸が部活を
休むはずない。でもユニフォーム?じゃなく、制服だった。ってことはなにかあったのだろうか。

「俺・・・は、岳人によばれて」
「向日に?」
「おう。プレゼントがあるからクラスまで来いって。へんなヤツだよな」
「・・・へんっていうか、なんていうか」

このためか、向日。私をここで待ってろなんていったのは。呆れてモノがいえない。っていうか向
日は一体なにがしたいんだろう。私と宍戸を会わせて、どうしろと。告白でもしろと。無理に決ま
ってる。私告白なんて、恐くてできない。だって今の友達という関係がとてもいいように感じる。
それで気まずくて離せなくなったら、もう私無理だ。

「お前はなんでいるんだよ?」
「・・・向日に待ってろって」
「・・・・はあ?・・・ったく、なんなんだアイツは」

宍戸は意味が判らない、という表情で私の後ろの席にドカッ、と座った。そこは向日の席だよ宍戸。
にくき向日の席だよ。それで結局アイツは何をしたいのか。私にはまったくもってわからない。

「・・・プレゼントって、なんだろーな」
「・・・なんだろうね」
「何もきいてねえの?」
「聞いてないよ。だって向日、宍戸がくるなんて一言もいってなかったし」
「ったく・・・なんなんだ、アイツは」
「それ、さっきもいったよ」

私が笑うと、宍戸も笑う。そんな関係がいいのだ。このままの関係でいい。このままの関係がいい。
それ以上望んで、話せない状況なんかになりたくなかった。それなのに、何をしでかすんだあの男
は。私にこれからどうしろと。

「・・・そういやは部活とかやってんのか?」
「やってないよー、帰宅部」
「運動部とか入りゃいいじゃん。なんではいんねーの?」
「私運動とか苦手なんだよね」
「ウソつけ。この前岳人がはクラスで一番足が速いっていってたぜ」
「・・たまたまだよ。皆が気抜いてただけだって」
「そうか?俺見てたけどそんな風には見えなかったぜ」
「・・・見てた?」
「あ、いや・・・なんでもねえ」

私が宍戸をみると、パッ、と顔を赤らめてそっぽを向いた。なんだなんだ、もしかして宍戸はウチ
クラスに好きな人がいるのか。あ、ヤバイ、自分でいっててちょっと虚しくなってきたよ。バカじゃ
ん、私。でもそんな事考えたくないから、わざと話をそらしてみた。

「そういえば宍戸、今日部活は?」
「部活?今日は水曜日だから休みだぜ?」
「・・・・・へ?」

いや、だってさっき向日は部活いくっていってたし。超上機嫌でいってきたし。俺部活いってくる
わー、って。え、てことは何、アレ。ウソ?

「ええ、だ、だって向日部活があるって上機嫌で・・・!」
「ねえよ今日は。それにアイツが部活に上機嫌で行くわけがねえ。跡部にどやされんのに、上機嫌
 でいくか、アイツが」 「・・・え、じゃあなんで部活いってくるとかいったんだろ」
「わっかんねー・・ほんとアイツが考える事は摩訶不思議だっつの」

宍戸は深いため息をもらしながら私の机に頬杖をついた。つまり私と宍戸は向かい合ってるわけだ。
何この状況。ちょっとキツイんだけど。っていうか、かなり恥ずかしいんだけど。どうしよう、向
日、助けろ。

「お前、さ」

宍戸がおもむろに口を開く。私はその言葉に、ドキッとしながら、その次の言葉をまった。宍戸は真
剣な表情で私を見つめてくる。

「な、なに?」
「・・・岳人と、付き合ってんのかよ?」
「・・・・・・・え?」

いや、なんで、向日と付き合ってる?どっからその言葉が生まれてきたんだろう。っていうかなんで
向日なんだろう。私があんなちっちゃくてバカなやつと付き合うわけ無いでしょ。そうやって、笑っ
ていえたらいいのに。

気づけば、目に涙がたまっていた。

「・・・お、おい、?」
「付き合ってなんかないもん・・・」
「え、いや、ワリイ、泣かせるつもりじゃなかった、っていうか・・なんでないてんだよ」
「・・・私は、向日と付き合ってないもん・・・」
「いや、わかったから。頼むからなくなよ。な?」

宍戸は困ったように私の背中をさすった。本当ダサイ、私。激ダサ。好きな人の前でないて、好きな
人に慰められている。でも、でも、好きな人にこんな勘違いをされるって、本当につらいことなんだ
よ。私は宍戸が好きなのに、私は宍戸が大好きなのに。それなのに、他の人と付き合ってるって勘違
いされる。そんな辛い事って、ない。

「・・・・マジで、悪かったな」

宍戸は涙が止まらない私の背中を一生懸命さすりながら呟いた。私が少し顔をあげると、困ったよう
に、顔を赤くしながら、

「岳人がお前の話しばっかりするから、そうだと思ったんだ」

ぽつり、ぽつりと呟く宍戸は、照れくさそうに、恥ずかしそうに頭をかいた。短い髪。不動峰中の橘
って人に負けて、レギュラー落ちして、でもそのあと努力して、頑張って、レギュラー復活と共に失
った長い長い髪の毛。私は、宍戸は短い髪の毛のが好きだ。だってそれは、努力の証だと思うから。
私が宍戸の髪を見ていると、宍戸はフシギな顔で、

「・・・なんだよ?なんかついてるか?」
「う、ううん」
「・・・・・・・・・・・・・・あー、でさ、あのよ、」

宍戸がさっきよりもっと恥ずかしそうに言葉をつむぐ。あー、とか、うー、とかしかでなかった声が、
いきなり、あーもう、という言葉と共に私の目を見据えた。

「お前、彼氏とか、好きなヤツいんのか?」
「・・・え?」
「いんのかよ」
「・・・・・えっと、好きな人なら、いる」

それは、アナタです、宍戸君。そういいたいのは山々だったけど、やっぱり後が恐くて言い出せなか
った。すると宍戸は更に、あー、とか、うー、とかいって。何かを悩んでいるようだった。好きな人
いんのか、とか、どうしようか、とかそんなこと小声でブツブツ呟いて。何かを決心したように、ま
た私の目を見据える。

「・・・俺、さ。お前が好きなんだ、けどよ」
「・・・・・・・・・・・・え?」

思わず、聞き返してしまった言葉。だって、だって、今何を言われたかわからなかった。頭の中を、
その言葉だけがぐるんぐるんまわっていて、ただ、それに呆然としていて。

「あー、だからな。俺はお前が好きなんだよ。で、お前岳人と仲いいだろ?だから付き合ってるかな、
 とか思ってたんだよ!なにせ岳人はお前の話しばっかするし!俺はお前のこと好きだし、岳人と付
 き合ってたら俺本当どうしようかと思った・・・情けねぇな、激ダサ」

宍戸は一人で喋りまくると、一気に脱力したように、腕に顔を埋めた。私はいろいろ頭の中で整理さ
せていた。宍戸は私が好き。私も宍戸が好き。それは、考えなくても、両思い。だから、もう恐怖感
なんてない。恐さなんて、なかった。

「しし、ど」
「・・・なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・私ね、好きな人、宍戸だよ」
「・・・は?」
「だから、私の好きな人は宍戸なの。多分、これも向日の計らいなんじゃないかな。私は宍戸が好き
 で、よく相談してたから」
「・・・・・・・マジ、で?」
「マジ、で」

私が宍戸の目を真剣に見つめると、宍戸は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いた。私は少し可笑しくて、
嬉しくなって、笑った。宍戸はそんな私を見て、少しだけムッとして、笑った。









「宍戸、手、みせて」
「手?」
「うん、手」

二人きりの登下校。私は今日向日に話したことを、早速見てみたくなった。宍戸の手。どんなんなって
いるんだろう。宍戸が、おら、と差し出した手。それは私よりもおっきくて、向日よりもおっきくて、
マメがあって、ゴツゴツで、テニスを一生懸命がんばった証拠。私はその手に、そっと自分の手を重ね
た。すると、宍戸が真っ赤になって、

「な、なんだよ」
「・・・つないで、みたいの。ダメ?」
「・・・・・・・・・・・・・・しょうがねえな」

私の手と、自分の手を、絡ませる。それがどうしようもなく嬉しくて、思わず顔が綻んでしまう。宍戸
も同じのようで、少しだけ、笑っている。


初めての下校、

初めて繋いだ手、




その手は、私の愛しい手。








手の







(クソクソ!上手くいったんだから、なんか奢れよな、、宍戸!)
















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はじめまして、企画に応募させていただいた黒姫と申します。
延ばし延ばしの締め切りを本当にギリギリ提出ですいません汗
とても楽しく書かせていただきました。
私は宍戸の手は、大きくてゴツゴツしていると思いました。

では、本当にありがとうございました。