「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なんか喋れよ」
「お前もなんか喋れや!」




はっぴーばーすでー、と大きな文字で書かれている部室。そこにいるのは私と赤也だけ。
ああ、なんて気まずいのだろう。









事の始まりは、幸村君の、この一言。

「今日、俺からへのプレゼントがあるんだ」
「え?」
「しっかり受け取って欲しいんだ」
「な、にを?」

ニッコリと笑う魔王(幸村君)は、ちょいちょい、と手招きをした。止めてください、ア
ナタの笑顔はとても恐いです、と何度思ったことだろう。その笑顔を向けて、手招きをす
る幸村君は、何所の誰よりも恐い。

「なんかいった?」
「いえ、ナンモ」

何故すぐに心を読むんだろう。そういう行動はやめてほしい。思わず口を閉ざしてしまっ
たではないか。


幸村君とはとりあえず幼馴染で、よく付きまとわれている。でも何故私が幸村君に対して、
君付けか、というと・・・。まあ、この状況見ればわかるだろうけど、恐いから、である。
幼馴染に対して、しかも先輩に対して「君付け」なんて、真田先輩が聞いたら怒られるだ
ろう、とは思ったんだけど。それを知っても真田先輩は何も言ってこない。むしろ幸村君
が裏でなんかしてそうだ。

「で、
「ハイ」
は同じクラスで今一番仲がいい赤也がすきなんだよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ?」

今、なんといいました幸村君。赤也が好き?赤也が好き!?

「あはは、何いってるんですか幸村君!冗談がキツイ」
「俺に嘘ついても無駄だと思うけど」

ニッコリ、と私に微笑みかける幸村君。その笑顔は有無を言わさず。嘘はいけない。嘘は
いけないよ。っていう、尋問。コレに答えなければ拷問に発展するといっても過言ではな
い。

「・・・・」
「好きなんだよね?」
「・・・はい」

でもこの笑顔はたとえ好きじゃなくても、好き、といってしまいそうである。ダメじゃん。
全然ダメじゃん。これ誘導尋問だよ。そういうのっていけないと思う。

「でも事実だから」
「・・・・はい、そうですね」

本当にこの人はさりげなく心の中を読む人だと思う。いや、もうさりげないのレベルじゃ
ないけどさ。


でも確かに事実である。


私は赤也が好きだ。本気で好きだ。でもこのことは誰にもいっていないし、言う気もなか
った。まあ、幸村君ならいつかは気づかれるかなぁとは思っていたけど。

「でね、」
「はいっ」
「今日はの誕生日だろ?」
「・・・はい、そうですね?」
「だから、プレゼントをあげようと思って」
「・・・いや、いいです」
「なんで?」

だって幸村君のプレゼントはいつもロクなものがない。小さい頃はトカゲの死体とか、ゴ
キブリの死体とか。しかも絶対自分は素手でもたないんだ。手袋をしているんだ。そして、
私の手にのっけるの。そして私が悲鳴上げるのをクスクス笑ってみているんだ。幸村君は
そういうのが大好きってこと。

「失礼な。別にの叫び声が好きなわけじゃないよ?」
「ゆ、幸村君・・・」
のビックリ+怯えた顔を見るのがすきなんだ」
「充分最低だよ、幸村君!」
「まあまあ、安心して。今度はそういうのないから、多分」
「多分っていう余計な言葉をつける幸村君が信用ならないよ」
「なんかいった?」
「いや、なんも」

幸村君はクスリ、と笑った。なにもいわない、いや、なにもいえない。この人の前で喋っ
てはいけない。

「いや、喋ってよ」
「・・・ハイ」
「それでね、プレゼントなんだけど、俺部室バック部室に置いてきちゃったんだよね」
「へ、へえ」
「・・・へえ、じゃなくて、言いたい事わからないかな?」
「・・・・はい?」
「とってきてよ」
「・・はい?」
「とってきて?部室にあるから」
「・・・え、ええ?いや、そんなこといったって」
「とってきて?」
「いえっさー、ボス」

部室って女子禁制じゃないの?この前真田先輩が言ってた。でもそんな事今はいえない。
いや、いっちゃいけない。私にできる事は走って幸村君のバックをとってくるだけだった。









で、今に至るわけである。

「・・・しかもなんで鍵中から開かないの?」
「いや、なんかこの前ブチョーが外側に新しい鍵つけてたみたいで・・」

そう。部室に入ったら中にいたのは赤也。とりあえず適当に挨拶をして、幸村君のバッグ
をとって、普通に外に出ようとしたのだ、私は。でも、ドアが開かない。がちゃがちゃと
いうだけで、ドアがまったく開こうとしない。なんてことだ。私と赤也は閉じ込められて
しまったワケだ。よくよく見れば、はっぴばーすでーとうい垂れ幕がかかってあるし、ケ
ーキあるし、祝おうとしてくれたことは明白。でも何故ココで。っていうか幸村君は唯単
にバッグを取ってきて欲しかっただけのはず。なのに何故、何故こんなことになっている
のか。目の前には赤也、鍵は開かない。こんな状況で、私に一体どうしろと。っていうか
鍵つけたのが幸村君なら、これ全部幸村君の仕業なんだよね。

「あ、
「なに?」
「お前今日誕生日なんだってな?おめでと」
「う、うん。ありがと」
「まあ、いいから座れよ」

席を指差す赤也。何故お前はそんなに偉そうなんだ。いや、ココは赤也がいるテニス部の
部室だから別にいいと思うんだけどさ。なんかすごい、先輩でもないのに上から目線って、
ちょっと。まあおとなしく座るんだけど。

「で?お前、何しにここにきたわけ?」
「いや、幸村君にバッグとってきて、といわれまして」
「ブチョーに?なんで?」
「プレゼントが入っているから、とか。なんとかかんとか」
「は?俺はココでみんなにに紹介してそのついでに誕生日パーティーやるからって聞
 いたぜ?」
「・・・紹介?なんの?」
「え、いや。だから、お前、マネになるんだろ?助かったぜ、マネいないって大変なんだ
 よな」
「・・・・・・・・・・・・・はい?」

いつ私がマネになるっていった。そんな話は聞いてない。聞いてないどころじゃない。今
初めてマネって言葉も聞いた気がする。ふざけるな幸村君。私が居ないところで勝手に話
しすすめやがって。でも本人に言えはしない。だって殺される。

「あ?違ぇの?」
「今初めて聞いたって・・・」
「・・・あれ?まぁどうせブチョーの言う事に逆らえないんだし、決定ってことで」
「・・・・」
「嫌なのかよ?」
「いや、別に嫌じゃないけどさ」

勝手に決めないで欲しい。幸村君。頼まれたって絶対やんないけど。でもこんな強引な事
しなくたって・・・!まあやらないってことわかってただろうから仕方ないけどさ。

「で、なんでブチョーは鍵閉めたんだ?」
「しらないよー!私が聞きたい!」
「まあブチョーのやる事はいつもわかんねぇからな」
「わかんねぇっていうかなんていうか摩訶不思議だよ」
「・・・チクっていい?」
「ダメ、やめて、殺されるから」

幸村君にだけは逆らうな、というのが昔からの方針だ。逆らえるか。逆らえっていっても
無理だ。絶対に無理だ。ふざけてる。ふと赤也をみると、赤也は頬杖をついてじーっとこ
っちを見ていた。

「な、なに?」
「いや、ってさー」
「・・・う、うん」
「好きなヤツとかいんの?」
「・・・はい?」
「いや、のそーいう噂聞いた事ねぇし。いんのかなーって」

います。いますよ、あなたですよ。いわないけど。絶対にいってやんないけど。っていう
か、いえない。いえません。今の関係壊したくないし。そんなの、嫌だし。

「・・・・・で、いんの?」
「・・・さあ?」
「んだよ、曖昧かよ」
「曖昧ナンデスヨ」

赤也は、ふーん、といって横を向く。なんだ、なんなんだ。彼は何がしたいのか。行動パ
ターンが全くよめない。幸村君とは違う読めなさ。あの人は読めないんじゃない、読みた
くないんだ。読もうと思っても読めないけど。すると、赤也が無表情で口を動かした。

「・・・・俺はいるぜ、好きな人」
「・・・・・・・・・え?」
「すっげぇカワイイんだよ。いやマジで。俺ベタ惚れ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ふーん」

だからなんだというのだ。それを私にいってなんだというのだ。自慢したいのか。好きな
人はかわいいんだぞ、って。そんなこといわれたら、お前なんか格下だっていわれてるみ
たいだ。すごい、気分悪い。

「じゃあその子と付き合えばいいじゃん」
「何怒ってんだよ」
「怒ってないよ」

怒ってないよ。悔しいだけ。ただ、悔しいと思っていて、それが態度に表れてしまうだけ。

「・・・付き合えばいい、つったよな?」
「うん、いった」
「じゃ、付き合う」
「うん」

これで私の恋も終わりだと思った。赤也とそのカワイイ子が毎日登下校して、遊びに行っ
て、そう考えただけでも胸が苦しい。考えちゃいけないってわかっていても考えてしまう
自分の頭が憎い。

「じゃあ、これからは俺の彼女な」
「・・・・・は?」
「付き合えばいい、つったじゃん」
「いった、けど、」
「だから、これからは俺の彼女」
「・・・え?」

意味がよくわからない。私が首をかしげていると、あー、もう、どんだけバカなんだ、と
赤也に頭を小突かれた。お前にバカっていわれたくない。そういいたくても、口が開いて
くれない。

「俺の好きなやつはお前。すっげえカワイイやつもお前。俺はお前にベタ惚れしてんの」
「・・・・え・・・?」
「まだわかんねぇの?」
「・・・あの・・私・・・」
「お前に拒否権はねえよ?だってお前が付き合えばっていったんだしな?」

ニヤリ、と笑う赤也。なんて卑怯な。やり口が卑怯すぎるんだよ。普通わかんないから。
どんな手口ですか。悪徳商法だと思う。


でも、嬉しい自分がいて。


赤也は笑っている。凄い笑ってる。なんだろう。嬉しすぎる。嬉しすぎて夢だと思ってし
まう。ほっぺを抓ってみると、確かに感じる、痛み。

「夢じゃねえよ、バーカ」
「バカじゃ、ない」
「俺の気持ちに気づかなかったお前は大バカだっつーの」
「・・・赤也も、気づいてなかったじゃん」
「は?」
「私の気持ち、気づいてなかったじゃん」
「はあ?何いってんの?知ってたに決まってんだろ」
「・・・はい?」

だって、さっき聞いたじゃん。さっき、好きな人いるかって、噂聞かないからって、聞い
たじゃん。

「あー、あれ、演技。俺よくできてたっしょ?」
「・・・演技?」
「そ。ブチョーに、やってみろっていわれて。ブチョーなんでもお見通しで怖かったっつー
 の。俺の気持も、お前の気持ちも、全部しっててこんな回りくどい事やったんだぜ?全
 部、最初からブチョーの計画。鍵閉めたのも、全部俺とお前のため」

絶対どこかで聞いて面白がってるよな、って赤也は笑っていた。実際、そうだと思う。そ
の通りだと思う。でも、今日だけは幸村君に感謝してもいいかな、って思ってみたり。ま
あ全部知っていてこんなコトやったっていうのはちょっとタチ悪いとは思うけどね・・・。

「うし、じゃあお祝いやるか」
「え?」
「え?って・・・お前今日誕生日だろ。そのお祝いだよ」
「あ、そっか・・・」
「忘れてたのかよ。あ、あと、マネ就任おめでとうパーティーか」
「えええええ、私まだやるなんて本当に一言も・・・!」
「いいだろ?別に」

赤也は私の耳元に口を寄せる。なんだ、なんだ。不覚にもドキドキしてしまう私。そして、
一言。




「俺とその分一緒にいれるんだしよ」




耳元で言われた声のせいで、内容があまり頭に入ってこなかったのはいうまでもない。








魔王からのレゼント









(幸村君が入ってきた時顔を真っ赤にさせていた私は思いっきり笑われました)