「おっまえさあ・・・なんていうんだろう。あーもうよくわかんねぇけど」
「・・・・・・なに?」
「あんまり、その、男と仲良くすんなよな!」

そうやっていうと彼女はキョトーンという顔をした。いやいや、あのな。お
前は天然でやってるのかもしれないけどな、俺は嫌なんだよ。わかるか?そ
りゃそこまで束縛したくはない。でもお前いつも男と一緒にいるだろ。確か
にお前は男勝りで、男と仲良くて、恋愛感情がまるっきりないってことはわ
かっている。でも彼氏として、やっぱりそういうのは許しがたい。

「なんで?宍戸そういうこと気にしてなかったじゃんか」
「いや、でもよ。なんか、なんていうか・・・悪かったな!」
「いや、アタシはいいけどさ。別に」

大雑把な彼女。ショートの髪の毛、部活は運動部のエース。クラスでも特に
目立った存在で、いつも頼りになる存在。女からは勿論、男からも頼りにさ
れてる。いつもいつも格好良くきめて、すごく暖かいヤツ。でも、どこか女
らしい部分も持っていて。どこか寂しそうな部分もあって。なんでだろう、
凄く護ってやりたくなるヤツだ。それで同じクラスで、なんだかんだ仲良く
なって、付き合い始めた。まあ勿論、告白したのは俺だけど。


でも未だに友達と恋人の区別はついていないような気がした。


「・・・・・でも、ワリィ、そんなこと言われても困るよな」

多分彼女は、そういうのは好きじゃない気がした。友達が多い彼女。別に男
女関係なく仲がいい彼女。それが女ならばいいけれど、男だと嫉妬してしま
う俺。俺も、彼女とそんな風に仲良くなったというのに。俺も付き合う前は、
そこらにいる彼女の男友達と同じだったのに。なんでこうなんだろう、本当
嫌になる。でも彼女は、あはは、と笑っていた。

「なんで?別に困らないけど」
「だって、アイツ等はお前の大事な友達だろ?」
「あーうん、そうだけど。でも、彼氏のが大事だよ」

“彼氏”とは彼女にとってなんなのだろう。俺は彼女にとってなんなのだろ
う。彼女と俺の関係は、付き合う前から全然変ってない気がする。それは、
俺だけだろうか?

「ねえ、宍戸」
「・・・なんだよ?」
「アタシは、別に嫌いじゃないよ、束縛されるの」
「・・・・いや、別に束縛とかじゃなくて、」
「いやだから、聞いて?人の話」
「お、おお」

彼女は少しだけ歩いて、こっちを向いた。その顔は笑顔に満ちていて、なん
でこんなにカワイイんだろうと思ってしまった。どうして俺はこんなにカワ
イイヤツを彼女に出来たのか。それが今の俺にとって一番のフシギだった。

「アタシは、宍戸の彼女だよ?」
「・・・おう」
「だから、もっと束縛してくれてもいいんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
「そりゃ男と喋るな!は無理だけど。先生もお父さんも男だし。いろいろ用
 事あるし」
「いや、そこまではいわねぇけど・・」
「でも、もうちょっと束縛してよ。してほしいよ」

彼女は少しだけ、悲しい笑みをこぼした。その笑みは本当に抱きしめてやり
たいほどの衝動で、でも俺が抱きしめていいかはわからなくて。彼氏のはず
なのに、俺は今どうしたらいいかわからなかった。

「・・・俺、は」
「ん?」
「お前はそういうの、嫌いだと思った」

だから、束縛したくても束縛できなかった。そうすると、彼女はもしかした
ら俺から離れていくんじゃないかって思って。バカみたいに、こんなにレン
アイの事で悩んだのなんて初めてかもしれない。でも、他の男と喋るたびに
ムカついてきて。本当に嫌で嫌でたまらなくて。でも、それを今まで言葉に
することが出来なかった。嫌われてしまうような気がしたから。離れていっ
てしまうような気がしたから。ああ、ホント俺って激ダサ。

「お前にそんなこというと、嫌われるかと思った」
「・・・バッカだなあ、アタシはいっとくけど、スキでもない人と付き合わ
 ないから」
「・・・え?」
「アタシさ、ずっと思ってたけど、もしかして宍戸はアタシが宍戸のこと好
 きじゃないとか思ってない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・少し思ってた」

そう、思っていたのだ。実際。コイツはそんなに俺のことを好きじゃないん
じゃないか。コイツは俺に同情、または適当に付き合ってるだけなんじゃな
いか。そう思ってた。

「アタシ、そんな軽い女じゃないよ」
「・・・・」
「アタシ、そんな軽い女に見えた?」
「・・・いや、見えてない」
「アタシ、結構マジメな人間なんだよ。授業中寝てるけど」
「・・・ああ、知ってる」
「好きだよ、宍戸。アタシは宍戸が好きだった。知ってる?アタシ、宍戸と
 喋る時、凄く緊張してたの」

マジメな人間だった。軽い女であるはずがないと思ってた。そんな、同情な
んかで付き合うヤツじゃないとも知っていた。でも不安だったんだ。彼女の
言葉を聞くまでは。

「アタシだって照れ屋なんだよ。そんな簡単に言えないよ」
「・・・なあ」
「・・ん?」
「・・束縛、してもいいんだな?」
「いいよ、いっぱいしてよ、束縛」
「じゃあ、する」
「うん、」
「あんまり、他の男と喋るなよ」
「うん、気をつける」
「ああ、頼む」

彼女は、かわいく笑う。それはいつも他の男に見せるような笑顔じゃなく。
俺に、俺だけに見せる笑顔。それは、俺だけのモノだと、結構前からわかっ
ていたのに。どうして信じていなかったのだろう。俺は彼女の腕を引っ張っ
て、力強く抱きしめる。

「アタシさ、」
「あ?」
「・・アタシね、」
「なんだよ?」
「亮って、呼びたい」
「・・・いいぜ、俺も、名前で呼ぶ」

なあ、のあとに、こっそり口を耳につけて、名前で読んでやる。こんなこと
するのは初めてで。もちろん、緊張してて。でもコイツは俺の大事なやつで。




俺の、一番の愛する人。




「ねえ、亮。アタシって結構Mなんだよ?知ってた?」




それは、新事実だ。












してよ










(Mってコトはイジメられるのスキなのか?)