まあ、確かにアタシも悪かったとは思うけど、

確かに、アタシは悪かったけども、

でも、アイツはもっと悪い。









「でよ、俺はぜってーあのキャラが重要だと思うんだよな!」
「ごめん、アタシゲームとかわかんない」
「知ってる」
「知ってるならいわないでよっ」
「いいだろー、聞いてくれよ
「ハイハイ」

友達の向日岳人に肩を揺さぶられながら話を聞く。コイツとはなんだかんだいって仲がいい。
やっぱり4年間同じクラスだと自然とそうなるんだろうか。

今日は氷帝学園高等部入学式。氷帝はエスカレーター式であるため、外部生以外は殆どが顔見
知りだ。そしてアタシは幼等部からいた生粋の氷帝生。つまり、顔見知りが多いわけだ。入学
式といってもクラスや新しい先生になるだけで、大していつもと変らない。違うといえば制服
が少しだけ変ったところだろうか。見知った人たちが多い中、入学式だ、っていう実感すらわ
かない。ただ、これからまたアタシは1年で、また先輩がいて、部活も一番下の位になるな、っ
て思っただけだった。そしてココにいる向日岳人は、中等部から連続して同じクラス4年目だ。
A〜O組という15組という多いクラスの中、コレは奇跡だ、奇跡としかいいようがない。岳人は
中等部のとき、あのホスト集団ともいわれるテニス部のレギュラーだったらしい。テニス部と
いえば、全国大会の二回戦で、都内にある青春学園という恥ずかしい名前(っていっちゃ失礼
か)に負けたらしい。あ、ちなみに関東でも負けたとか。まあアタシはテニス部なんてよくし
らないし、他の女子がキャーキャー騒いでてもさほど興味はない。テニス部レギュラーで知っ
てるのはこの岳人と、中等部の頃から嫌でも眼に入った(だって周りが騒ぐんだもん)跡部景
吾と、よく岳人と一緒にいる似非眼鏡関西人忍足侑士ぐらいだった。いや、だって別に男子に
さほど興味があるわけでもないし、他の子たちが「あの人格好いいー」とかいってても「へえ」
ぐらいだ。まあだから岳人ともつるみやすいんだろう。テニス部、ってだけでキャーキャー騒
ぐ他のヤツラとはワケが違う。

「んで、さ、」
「うん、もうゲームの話はいいから」
「ちえー、なんだよ!クソクソ!」
「ハイハイ」

アタシと5センチは違う岳人は、ったく、といいながらアタシの隣で笑う。ちっちゃくても、ま
あ4年前から成長したかな、とは思う。自分のクラスの前につき、ドアをガラリとあけた。中に
いた生徒が一斉にこちらを見る。すると、女子どもの目がパァッ、と見開いた。あ、コレはヤ
バいぞ。アタシが3年間岳人と一緒にいて経験したコトがまたまさに起ころうとしていた。サ
ッと岳人の隣から身をひく。岳人はそれに気づいたようで、オイ、と声を掛けそうになる。

「キャー!向日君よ!!」
「向日くーん!!」
「同じクラス!!向日くーん!!」

ホラきた、女子共。襲ってくる女子共に岳人は引きながら、反対側のドアから入ろうとするア
タシをみて、オイ、助けろよ!と叫んだ。が、3年間これをどうにかして助けられるか考えたと
ころいい案は浮かばなかった為、とりあえず巻き添えにならないように逃げる事にしたのだ。
でも流石伊達にテニス部レギュラーやってなかったな、と思う。高等部にあがってもコレだ。
なんというか、女子って怖い。アタシも女子だけどさ。入ってすぐ、自分の座席を見る。うわ
お、なんということか。岳人と隣の席。ありえない。女にうるさい日々が続くのか。まあ、あ
の有名な跡部君や忍足君と同じクラスじゃなかったことだけ、マシ、ってことかな。席は窓側
から三列目の三番目。わお。眠れないじゃんか。そこに座ると、右の席にぐったりしている短
髪の男のコが。なんだこの人、もしかして外部生か?気持悪いのか?緊張のしすぎか?

「大丈夫?キモチワルイならトイレ、教えてあげるけど?」
「・・・・・・・・あ゛?」

睨まれた。なんだなんだ、親切でいってやったのに。すげえ目つき悪い。しかもその目つき悪
い眼で睨まれた。最悪だ。なんだコイツ。ふざけんじゃねえぞコノヤロウ。ってことでアタシ
も睨み返してみた。そしたらもっと鋭い目つきで睨まれる。なんだなんだ。やろうってのか。
絶対負けねぇ。

「おい、お前等何してんだよ・・」
「「岳人!」」

アタシと目つき悪いやつの声がハモった。なんだなんだ外部生。岳人を知っているのか。そり
ゃー岳人はあのテニス部のレギュラーだしぴょんぴょんはねるバカとして有名だけど。うん。
外部生もしってるなんて驚きだ。

「つーか、お前助けろよな」
「あーうん、ごめんね。超面倒くさかったな」
「ったく・・・まあお前に関わらせたくねぇけど」
「あ、なんだ。しっかり考えてくれてるんだ。やーさーしー」
「当たり前だろ?校内で障害事件起こしてその犯人が俺の友達とかしったら俺が悲しい」
「え、何。アタシが被害被るんじゃなくてアタシが加害者なの?」
「当たり前だろ」

何その発言。アタシでも傷つくよ?いくらアタシでも。すると、隣の目つき悪い男が、岳人に
、知り合いか?って話してる。え、何。お前等こそ知り合いかよ!

「ああ、宍戸はしらねぇのか。コイツ。俺のダチ。なんだかんだいってずっとクラス
 が同じなんだぜ」
「へえー・・・」
「んで、お前は宍戸の噂ぐらい聞いた事あるだろ?」
「は?誰?」

そんな人聞いた事も見たこともありませんけど、何か?そういうと、ああ、お前はそういう情
報に疎いもんな、と笑われた。む、失敬な!岳人は笑いながら、

「コイツ、俺と同じレギュラーだったんだぜ?知らなかった?」
「アタシテニス部のレギュラーとか興味ない。目立つ跡部君といつも一緒にいる忍足君ぐらい
 しかしらないよ」
「あー、やっぱな。コイツ、宍戸。宍戸亮」
「・・・へえー、よろしく」

なんだ、外部生じゃなかったんだ。と今更ながら思った。っていうかそれはそれは失礼だった
ね。うん、ごめんよ。でも謝る気はサラサラないけどね。

「多分宍戸、と気が合うと思うぜ?コイツ女だけど女じゃねぇから」
「あら失礼ですわ向日君。殴りますわよ」
「女言葉使ったってキモイだけだぜ。っていうかまず殴る発言から女じゃねぇよ」
「・・・ふーんだ、向日君のばーか」
「向日君ヤメロ、キモイ」

岳人は身を抱き上げて、ブルッと肩を震わせた。なんだなんだ、そこまでしなくてもいいじゃ
ないか。まあ、仕方ないけど。宍戸っていう人は、こっちを睨むように見て、そっぽをむく。
その態度にムカーっときたアタシは、

「ねえ、そういう態度ないんじゃないの?」

と、思わずいってしまった。しょうがないのだ、アタシはそういう子だから。そういうタイプ
だから。だってアレじゃん。ムカつくじゃん。アタシそういうヤツが嫌いなの。すると宍戸は、

「だって女ってキャピキャピいって騒ぐだけだろ。しかも跡部とか忍足みたいな顔がいいヤツ
 には媚売るだろ。しかもテニス部ってだけでキャーキャー騒ぎやがる。そういうのはウザイ
 んだよ」

その言葉にアタシは今カチンと来たね。だって、女ってそういうのばっかりじゃないじゃん?
それで、まあちょっぴり(でもないけど)キレちゃったアタシは、机をドン、と叩いて、

「あのさ、世の中の女が全員そういうモンだって思わないでくれる?」

宍戸を睨みながら、そういった。岳人はとなりで、あちゃー、って顔してる。うん、岳人はこ
ういうアタシを一番よく知ってるもんね。

「アタシはキャーキャー騒ぐのは嫌いだし、テニス部なんて興味ない。最近人気がある忍足君
 や跡部君なんかには無論、近づきたくも無い。女子、で一くくりでそういう風にいうの、や
 めてほしい」

少し声を荒げてしまった。教室が一斉に静まった。どうやら注目を集めてしまったようである。
アタシはその視線に耐えられなくて、

「ごめん、岳人。アタシ入学式サボるわ。上手く言い訳しといて」
「・・・・・・・・・・おー、わかった」

とりあえず、屋上へ逃げる事にした。









とりあえずムカつく。アタシは女子だけど、テニス部とか、格好いいオトコノコとか、興味は
無い。人並みに恋愛はしたいと思うし、人並みに男友達がほしいとは思う。でも、テニス部だ
から、とか、格好いいから、とか、そういうもので決めたくない。ちなみにテニス部で知り合
いといえば、さっきの岳人と、岳人によく絡んでくる忍足君、そして今の宍戸、って人だけだ
った。跡部君は、(無駄に)騒がれるから知っている程度で、別に興味のカケラもない。まっ
たく、そういう女子がいるってコトも考えてほしい。

まあ、でもアタシの周りにアタシと同じタイプの女子がいるかと聞かれれば、いないと答える
けど。

そんなもんなんだろう。多分宍戸って人も見たこと無かったんだと思う。そういう人。まああ
れだけキャーキャー騒がれていればな、とあらためて思った。そう、そうなんだ。

きっと宍戸って人の周りはそういう人しかいなかったんだ。

うん。そうかもしれない。きっとそうなんだ。だから、あーゆー態度もうなずける。流石にあ
の態度にはムカッときたし半分キレかかったけど、冷静に考えればそうなのかもしれない。そ
う考えると冷静に対処しなかったアタシも悪いかな、とは思ったけど、あーゆー態度をとった
アイツも悪いと思う。いや、絶対悪い。だから、謝らない。っていうか謝る気もない。きっと
あーいう人とは仲良くなれないんだと思う。きっとそうだ。そのとき、ガチャ、とドアが開く
音がした。見上げると、そこには今考えていた人物。

「・・・・・・・・・・・・あ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

二人で見合わせてマヌケに声をだす。隣いいか?と聞かれて、ドウゾ、といった。うん。別に
隣に座っても気まずいだけじゃんか、とも思った。まあ違う場所に座られても気まずいだけだ
けどな!

「・・・・・・・・・・・・・お前、さ」
「・・・・・・・・・・うん」
「・・・・・・・・・・・・・・悪かったな、ウザイとかいって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

彼の口から出た言葉は、なんというのだろう、あまりにも素直すぎる言葉でビックリした。な
んだ、なんなんだ。アレだけのこといっといて、なんなんだろう。

「いや、だから、俺の根本的な考え方がまちがってたっつーか、なんつーか、」
「・・・・・・え、いや、うん」
「俺も、まあ、なんか、岳人より先に来て女どもがうるさくてイライラしてて、なんかすげぇ
 態度悪かったよな、ワリィ」

なんだなんだ、やけに素直じゃないか。なんか拍子抜けだ。今までなんか怒ってたアタシがバ
カみたいじゃないか。

「・・・・・・・アタシも、いいすぎた、ごめん」
「・・・・・・・おう」
「うん、まあ。アタシ、岳人とも、昔っから仲良くてさ。まあそういう女はことあるごとに何
 十人も見てきたけど、アタシみたいなタイプ、あまりみたことなかったわ」
「そうなのか?」
「そ、まあそれでアタシ岳人と仲いいからイジメとかあったりしたしさ。なーんで女ってあん
 なにインケンなんだろうね。嫌になるわ」

はあ、とため息をつきながらいうと、心底ビックリした顔された。なんだ、なんなんだ、アタ
シなんか悪い事いったか。

「・・・なんですか」
「あ、いや、ワリィ、イジメられたこともあるんだなって」
「何、そういうことなんてなさそうな図太い顔でもしてた?」
「じゃなく、なんつーか、あー、なんつーんだろうな。そういうんじゃねえんだよ、マジで」
「じゃあなんなんでしょうかね、宍戸君」
「あー・・・だから、なんでイジメられても、岳人との友達やめなかったのかーなんて・・・」

ああ、そんなことか。それなら前、友達にも聞かれた事合った気がする。
アタシが岳人のことでイジメられてて、でも岳人と普通に喋り続けて(勿論岳人にイジメられ
たなんていわないし、それを隠してきたつもりだ)、なんで友達をやめないのか、と。その時
も、アタシはこう答えた。

「だって、岳人に罪はないじゃん?アタシは岳人が好きだから友達やってんの。なんで他人に
 どうこういわれて口出しされなきゃいけないワケ」

おお威張りで、そういった。そういやイジメてきたヤツにも言った気がする。岳人君はそう思
ってないのかもしれないわよっ、とか言ってきたけど、その時は、

「岳人が嫌がってたらアタシからとっくに離れてると思う。だって岳人ってそういうヤツだし」

と、いった気がする。岳人は嫌々アタシと一緒にいることはない。現に、岳人にテニス部のヤツ
等と仲良くなれる、とか、そんな下心みえみえのヤツとかはハッキリ排除してきたのをアタシは
見ていた。そして、岳人はアタシに、「自分が嫌なやつとつるんで何が楽しいんだよ」と言い切
ったのだ。楽しいとは言いがたいが、楽しくないわけじゃないとおもう。うん、だからアタシが
岳人の友達やめる理由もないし。そう彼にいったら、彼は本当に驚いたような顔をしてた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・何?」
「いや、そーゆう考えもったやつって、いるんだな、って」
「何?アタシなんか可笑しいこといった?」
「いや、全然。すげえよ、お前。格好いいな」

少し笑った。うん。こんな表情も出来るんだ。なんだ、格好いいじゃん。なんだなんだ、もしか
したらイイヤツなのかもしれないぞ。

「あー・・俺とも、その、友達になってくんねぇかな」
「へ?」
「いや、俺ってさ、ホラ、あーいう性格だし、近寄ってくる女は跡部や忍足のファンか、他目当
 てだったしさ。新鮮な女友達とかいないんだよな」
「ふーん・・」
「で、お前とはなんか仲良く慣れそうな気するし」
「・・ん、いいよ。アタシ。さっきも岳人がいったけど、あらためて宜しく」
「おう。俺宍戸亮な、まあさっきも岳人がいっただろうけど。よろしく」

アタシと宍戸は少し笑った。




この日、新しい友達が増えました。







いは最悪








(でもトイレ教えてあげよっか、はマズイと思うぞ)(あ、ごめん)








2007/9/10