わかっているといえば、わかっていたのだ。








「なぁ、腹減った」

私が家に持ち帰った仕事をしていれば、亮はガマンぎれしたのか、そう呟い
た。そういえばもう帰ってきて二時間になるな、と思い直す。時計を見れば
9時だ、よほどおなかが空いたんだろう、いつもより元気がない。ご飯だけで
元気がなくなるとは思えないが、私がかまってなかったのも一つの原因だろ
う。

「うん、わかった。今からご飯作るから、待っててね」

そういって書類を机の上におき、ノートパソコンを閉じて、キッチンに向か
う。近くにあったエプロンをつけて、冷蔵庫の中身を確認。カルビがある…
ってことでカルビ丼に決定だ。私はそこまで食べる方ではないが、亮は思
いっきり食べるからな、と苦笑。

「・・・なぁ」 「ん?」

イキナリよばれ、後ろを振り向けば、不意打ちで私にキスが落とされる。一
回目は軽いもの、だけど二回目は深く、私の口内に侵入してくる。拒む必要
はないのだが、流石にご飯がつくれない。

「りょ・・・りょう!ちょっとまって!」

私がそうストップをかければ、不思議そうに私を見る亮。私を見る目はとて
も優しいのだが、今日はどこかおびえている。

「・・どうしたの?なんかあった?」

私が優しく問いかければ、亮は顔を赤くして、別に、といい顔をそらしてし
まう。いつもそうだ、とため息をつき、ご飯を炊く準備をする。なにかあっ
たとき、わかりやすいのに何もいってくれないのが彼のこと。
結婚して2年目、もう子供もできてもいいころなのにね、と親から時々電話
がかかる。もちろん行為はしてるし、避妊はしてないし。確かに不思議なこ
となんだけど、私は別に焦らなくてもいいと思っていた。私がそんなことを
思いながらご飯を炊く準備をおえて、スイッチをおした。ピッ、という電子
音がなる。私はふぅ、とため息をつき、亮に向き直る。

「どうしたの?なにかあるならいって?」

私がそういえば、頭をポリポリとかく亮をみる。私はそのままリビングへと
むかって、腰を下ろした。来い来い、と亮を手招きすれば、亮も私の隣に腰
を下ろす。

「なんかあったんでしょ?」
「・・なんでもねぇよ」
「嘘。なんか思いつめた顔してるもん」

ニッコリ笑えば、突然腕を引っ張られる。何が起こったのかがわかったのは
其の数秒後。私は亮の腕の中に収まっていた。
「・・・・忍足が」
「忍足が?」
「・・・俺がお前を満足させてやってねぇんじゃねぇか、っていったんだ」

満足、というのはやはりそっち系だろう。はぁ、と深い深いため息をつき、
今度あったら必ず忍足の心臓に杭をさしてやる、ときめる。満足なんて、よ
くわからない。とにかく毎日毎日激しくされて、満足とはよくわからないが
不満足はしていない。

「・・・亮、あのね」
「俺が必ず奪い取ってやる、っていわれた」

私の言葉を遮ってそういった亮の言葉には、悔しさとか、悲しさとかが含ま
れていた。そんな亮に私は苦笑する。強がってても、結局亮は弱いんだ。だ
から、誰かが支えてあげなきゃいけないんだ、って。そう、最初から思って
た。

「・・・私達結婚してるんだよ?手出してきたら訴える事だって出来るから」
「でも」
「亮は私を忍足に奪わせるの?」

今度は私が亮の言葉を遮ると、亮はもう一度、私を抱きしめた。そして耳元
で、苦しそうな声で。

「・・・違う・・・お前は俺のモンだ・・・っ」
「・・・でしょ?だから心配なんかいらないの。何かあったら、亮が護って
くれるんでしょ?」

そう、彼に問えば、彼は私を抱きしめる腕を緩めた。私が顔を上げれば、彼
の先ほどとは違う優しさに満ちた笑みで笑った。

「・・・当たり前だろ。誰がお前を忍足みたいなやつに渡すんだよ」

そうやって、私にキスを落とす。見つめあい、そして深いキスをする。口内
に<亮の舌が侵入してきて、ちょっと息苦しい。いい加減なれないとな、って
苦笑しながら笑った。

「・・・・・・・愛してる、

普段滅多にいわない愛の言葉。其の言葉を、顔を赤くしながら私の耳元でさ
さやいてくれる。未だ不器用な彼が、私は大好きだ。

「私もだよ、亮」

そう言い返せば、更に顔を赤くした亮が、ソレを見られまいと私を強く抱き
しめる。私は其の温もりが暖かくて、嬉しくて。

「・・・・・・・・・・やっぱり俺、お前が一緒でよかった」

ボソリ、とでも私に聞こえたように呟いた亮に、私は驚いて彼を見る。亮は
気まずそうに、ふい、と顔をよこにそらした。ねえ、亮。それはね。

「・・・・・・・・・・・・私も、亮がいてよかった。亮と結婚できてよか
 った」

そういえば、やっぱり顔が赤い。こういうことには慣れてないんだよね、亮
、そういって笑えば、ウルセー、って言われた。こんな純情ボーイでもヤる
ときはヤるんだよね。私はそんなことを思って、はぁ、とため息をついた。









俺とが会ったのは中1のころ。仲が良くて、親友で、一番気が合う存在
だった。そんなとき、中3で俺は不動峰の橘君に負けた。俺は学校をサボっ
て、家でずっと雑誌やら色々よんでいたんだ。忍足や跡部の電話も無視し、
の電話も無視し。するとあるとき、彼女がやってきた。そして仁王立ち
していったんだ。

“テニスがすきなら簡単に諦めんなよ!最後まで粘りついていけ!”

今の彼女がこんなこというとは思えないけど、でも、確かに彼女だった。俺
は前々からが好きだったけど、本当、俺ココですべてやりなおそうって
決めたんだ。長太郎に頼み、レギュラー復活して。そして、ケジメをつけて
に告白に行く。そう決めた。そして、告白したら、二言返事で、いい
といわれたのだ。まぁそれから今まで順調に事は運ぶわけだが。其の間にも
、忍足やら跡部やらの邪魔もはいり、本当にアイツ等殺してやろうと思った
。そして、今日。久しぶりに街中で会った忍足と、お茶をした。もちろん、
あっちから誘ってきたんだ。俺は忍足なんかと茶する気なんてなかったしな
。でも、無理矢理強引に喫茶店につれられて。言われたんだ、あの変態に。

『最近どうや?』
『最近って?』
『営みや営み!順調なんか?子供はできたん?』
『・・・なんだお前、キモチワリィな』
『なんや、このプレイボーイに向かって失礼やな』
『お前いっぺん死ねばいいと思うぞ』
『で?どうなん?毎晩姫さんを腰いたなるまでヤっとるわけか?ええなぁ、
 このこの!子供は?どうなん?』
『・・・・・・・・・・・腰痛くなるまでやってねぇよ』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』
『そこまでやってねぇよ、妙な期待すんじゃねぇ。子供もまだ出来てねぇよ
 。』
『おま・・・っ・・・それはないやろ?ちゃんとヤってるん?』
『ヤってるよ、うっせぇな。お前に俺の家の事情を言われる筋合いねぇよ』
『わー、俺の家の事情やって。・・・せやったらお前満足させてないんちゃ
 う?』
『・・・・・・・・・・・ぁ?』
『そんなんやったら俺が姫さんもらうで。結婚してても関係あらへんしな』

あぁ、本当に忍足は最悪だよな。意味の判らない行動とか、すべてが俺は最
悪だと思った。だから、俺はガラにもなく落ち込んで、でもバレないように
振舞ってやったのに。

─────────どうしてアイツは、気づくんだろうな?

俺のこと心配そうに見上げて、どうしたの?って。カッコ悪くていえるかよ
、と思っていたのに、結局言っちまった俺。でもアイツはそれをちゃんと受
け止めてくれたんだ。やっぱりコイツは、俺の自慢の嫁だ、って本当、改め
て認識したんだ。

「今日はカルビ丼ね」

腕まくりをして意気込むに、俺はおでこにキスを落としてやる。不意打
ちに、ちょっと赤くなった顔がまたカワイイ。

「それ食い終わったら、ヤろうな」
「うわ・・・直球―。恥ずかしくないんですか亮君」
「もう慣れたんだよ。今日は手加減しねぇからな」
「いつもいつでも手加減してくれないのはどこぞの誰でしょうかね」

ケッ、というに、口がワリィな、と頭を撫でてやる。俺より小さい
は、俺を見上げ、少し睨む。でも其の姿もまた愛しくて。


「何よ」
「・・・・・・・お前やっぱすげーかわいーぜ?」
「・・・ばかっ!」

俺の腹に一発パンチをいれて、台所に向かう。でも俺は笑顔だった。
多分、も笑顔だろう。




俺はきっと彼女を愛し続けるだろう。ずっとずっと。

家族が増えても、それはかわらない、と思った。




2006/11/05 UP 2007/5/8







▼ 久々に見つけたモノ。うわーうわー恥ずかしい。加筆修正してねぇよこのやろう。






しても、カワラナイ。