「ジーロ、おーきて」
「ヤーダ」
「・・・おきてんじゃん」
「えへ」

えへじゃないっつーの、って頭を軽くぐーで殴った。ジロは笑いながらも、起きようと
はしない。今ジロは私の膝に頭をゴロンとのっけて寝ているのである。その、陽だまり
のような顔をむけて。

「起きてくれないと、授業うけられないよ?」
「受ける気なんてないくせに」
「まあ、確かに、ないけど」
「ほらやっぱり」

ニコニコニコニコ笑うジロに、私は思いっきり叱れない。惚れた弱みなのか、いや、惚
れる惚れないよりもジロにはかなわない気がする。

「気持E−!」
「私の太もも太いからね、肉がいっぱいあってプニプニしてるからね」
「そうじゃないの!女の子の肌はやわらけーって話し」
「そうなの?」
「そうだよー!」

ジロはニコニコと笑いながらすりすりと私の膝に頬を摺り寄せる。ああ、かわいいなあ、
萌えだなあ、・・っと、ダメだダメだ、私が危ない人になってしまう、いや、もうすで
に危ないんだけど。ジロみてると和む。和むどころじゃない、もはや危ないのである。

「ジロはさー」
「んー?」
「寝るの好き?」
「好きー」
「そっか」
「うん」

ジロは空を見た。空と一緒に、私の顔も見た。眼が合った。ジロは、まっすぐ私の瞳を
見ていた。

「ねえ」
「なに?」
「おれのこと、すき?」
「好きだよ?」
「ほんとに?」
「ほんとに」

ジロは不安そうな顔を私に向けて、私の頬に手をやった。ねえ、ジロ、そんな不安そう
な顔しないで。私はどこにも消えないから。ジロの前からいなくならないから、そんな
顔しないで。

「おれさ」
「うん」
「テニス、すきだよ」
「うん」
「空もすき」
「うん」
「跡部も、おったりも、みんなすき」
「うん、しってるよ」
「おめーもすき」
「ありがと」

私もジロ大好きだよ。ジロ。だから、泣きそうな顔しないで。何があったかはしらない
けど、私はいつもジロのそばにいるから、泣かないで。

「愛してる」
「ジロ」
「おれ、おめーを愛してる」
「ジロ」
「だからさ、おれ、ずっとおめーと一緒にいる」
「うん、いて」
「おめーは?おれを愛してる?」
「愛してるよジロ、あいしてる」

泣きながらいうセリフじゃない気がした。自分がなんで泣いているのかがわからない。
自分がなんでこんなに感情が高ぶっているかがわからない。何かあったわけでもない。
ただ、どうしようもなく寂しさを感じたのだった。ジロは私の膝に寝転んだまま、空を
みて、手を伸ばした。でも、空はつかめなくて、そのままジロは拳を握った。

「ジロ」
「なくなよーないたらおれ、かなC−よ?」
「うん、ごめんね」
「キスしたらなおる?」
「わかんない」
「キスする?」
「ジロのすきなほうで」
「じゃあ、する」

ジロは私の頬を両手でつかむと、下に先導する。私も自分から、ジロの顔に近づける。
ジロの唇と私の唇が、重なった。3秒ぐらいの、短いキスが、私にとってはとても長く感
じられていて。とても長くて、でも、時間にすると本当に短くて、一緒にいるはずなの
に、とても短い感じがした。唇を離せば、ジロは私の膝から起き上がって、ふあ〜あ、
と欠伸した。そしてからジロはニコッ、と笑って、行こう、と私に手を差し伸べた。


「ねえジロ」
「なに?」
「このまま帰っちゃおっか」
「そうだね」
「どこいく?」
「とりあえずウチ来て、一緒に寝ようよー!」
「いいよー」
「あ、寝るって違う意味で、ね?」
「・・・・え?」






私はジロとずっと一緒にいる。












彼と空と