君の手に触れたいけど、

君はその手に触らせてはくれない。




「りょーちゃん、一緒にかーえろ」
「・・・遅くなるぜ?」
「だいじょーぶ、待つから」

付き合っておよそ二ヶ月、ラブラブ真っ盛り────といいたいところなんですが。一緒には帰る。
帰宅部の私は教室で寝ながら待つんだけど。でも手はつながないキスはしない。デートだって約束は
してても部活が入る確立100%。よって、今までデートなんてしたことがないのである。まあいいんだ
けど。私はテニス部の宍戸亮を好きになったわけだし。私はテニス部の短髪で物凄く努力家で一生懸
命な宍戸亮を好きになったわけだし。今更そんなラブラブーな雰囲気は求めてない、もん。

「自分ホンマにようやるなぁ」
「なんだおしたりだ」
「あんまかまってやってないやろ?宍戸」
「うん、あんまり」
「自分、嫌やないん?」
「べつにー?りょーちゃんがいればそれでいいもーん」

忍足はそうか、と苦笑した。なんなんだお前。私にはりょーちゃんがいればいいの。かまってくれな
くても、りょーちゃんがいるだけでいいの。でも正直言って、愛されている自信は、ない。告白した
のは私だしでもりょーちゃんはそれに応えてくれただけだしもしかしてスキじゃなくても付き合って
たのかもしれないし。別に私じゃなくてもよかったのかもしれないし。実際「スキ」という言葉をりょ
ーちゃんの口から聞いたことはない。聞きたいのに、聞き出せない。ぶっきらぼうで意地っ張りだっ
てわかってるし、多分スキでもいわないと思う、けど。一回ぐらい聞いてみたいのが、乙女心ってや
つじゃないですか?

「あんま意地はるんやないで?」
「意地はってませーん。よけいなおせわです」
「別にええけどな、まぁ宍戸は好きな子やないと付きあわんから、愛されてるで、結構」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふんだ」
そんなの、忍足の口から聞いても嬉くもなんともない。りょーちゃんの口から聞きたいんだもん。宍
戸から「スキ」っていってほしいんだもん。ワガママだよ。ワガママだからなんだよ。バカ。そりゃ
さ、そりゃね、不器用だってわかってるけど、何時までもこんな状態が続くといくらなんでも私だっ
て悲しくなる、不安になるよ。忍足のいいたいことはわかってる。忍足のいうこともわかってる。で
も、でもやっぱり本人の口から聞きたいと思うのは、当たり前でしょ?

「ほなな」
「はやくいけばか」

しっしっ、と忍足を追いやって私は机の上の腕に顔をうずめた。たった一人の教室。寂しいけど、りょ
ーちゃんを待つためならこのくらい。
そう、このくらい、だい、じょう、ぶ。うーん、ちょ、っと、ね、む、い・・・。









「・・・ん・・」

あ、りょーちゃんの声が聞こえる。これは幻聴かな?りょーちゃんに会いたいとか思ったりしてたか
ら、神様という架空の人物が私に幻聴を聞かせたのか。そうだ。きっとそうに違いない。あ、でも架
空の人物なんだから違うのか。

、部活終わったぞ」
「・・う・・ぶかつ・・・?」

何このリアルな幻聴。架空神様め。きっとお前は私に起き上がらせて、へへーんウソだよばーか、と
かいうつもりなのかこの野郎。受けてたとうじゃないか。そうなら意地でもおきないでやる。だって
こんな早い時間にりょーちゃんが来るわけがないのだ。まだ5分ぐらいしかたってないはずである。部
活が終わったなんて、ありえない。ふふん、私はそんなバカじゃないぞ架空神様。参ったかこのやろう。

「・・・お前、何寝ぼけてんだよ。一緒に帰るっつっただろーが。オラ、起きろ」
「・・むぅ・・架空神様のくせして・・」
「はぁ?お前なんの夢みてんだよ」

むむ、酷いなりょーちゃんの幻聴をきかせてる架空神様め。どこまでも似せやがって。あーもう、いい
だろう。仕方ない。勝負を受けてやる。一回おきて、落胆するに違いないけど、もし落胆するなら架空
神様を罵る事ぐらいすればいい。そして私は勢いよくカオをあげる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
「やっとおきたかよ、ったく。何度も寝ぼけやがって」
「・・・・・・・・・な、なんでりょーちゃんがいんの?架空神様は?」
「はあ?・・・お前頭大丈夫かよ」
「え?え?」

私が首をかしげていると、りょーちゃんは深い深いため息をついて、一言。

「帰るぞ」

何がなんだかわからなくてもその一言が嬉しくて、ちょっと笑った。なんだよ架空神様、コノヤロウ。で
も今日だけは許してやろうと思う。









「ってか早かったね?5分ぐらいしかたってないじゃん」
「はあ?あれから三時間は普通にたってたぜ?」
「え、うそだぁ、だって私5分しか寝てないよ?」
「時間がたつのを忘れてたんだろ」
「あ、そっか」

納得納得、と首を振ると、りょーちゃんはまたため息をついた。なんだなんだ、私の何が不満なんだ。いや、
多分全部だろうけど。りょーちゃんは私と付き合ってから、ため息しか出していない気がする。きっとりょ
ーちゃんは私じゃ物足りないんだ、きっとそうなんだ。考えただけでも悲しくなる。

「お前さ、本当バカだよな」
「バカ?バカ?どこが?」
「全部」
「・・・ぶー・・だ」
「その顔キモイぞ」

頬を膨らませると、りょーちゃんは呆れた顔でいった。こんなことするの、りょーちゃんの前だけなんだか
らね。りょーちゃんはそれから、今日の事を話し始めた。これはいつも一緒に帰る時の習慣だ。りょーちゃ
んはコロコロ表情をかえて、楽しそうに話す。跡部が、忍足が、岳人が、ジローが、長太郎が、若が、樺地
が。そんな、テニス部の面白い事や大変だった事を、嬉しそうに話す。りょーちゃんの嬉しそうな顔を見る
のは、私も嬉しい。凄く嬉しい。でも、何かそれだけじゃ物足りない。きっと私はわがままなんだ。知って
た。なんか、違う話で、ロマンチックになってみたり、一緒に嬉しがったり、悲しがったり、したいだけな
んだ。だから、私はちょっと寂しい。別にいいんだけど。テニス部の面白い話をしているのも面白いし、嬉
しそうな、楽しそうなりょーちゃんを見るのも楽しいし、嬉しいし。でもちょっと寂しい。複雑な、乙女心
というやつか。うーん、うーん。でも、ホラ、りょーちゃん疲れてるわけだし。テニス部の話も面白いし、
仕方ないよね。うん。私に楽しい話があるわけじゃないし。

「・・・おい、どうした?」
「へ?」
「あー、なんかすげぇ浮かない顔してるから」
「そ、そーでもないよ?」
「どもってる、なんかあったのか?」
「うーうん、なんでもない」

どうやら私は顔に出るタイプらしい。うむ。よく友達から単純っていわれているから仕方がないといえば仕
方がないけどね。りょーちゃんは心配そうに私の顔を覗き込む。あたしとりょーちゃんはおよそ20センチの
身長差がある。りょーちゃんは、少し悲しそうな顔して、

「話、つまんなかったか?」
「ううん、楽しいよ。忍足がまたバカしたんでしょ?」
「ああ、跡部がキレて大変だったっつー話しだ」
「うん、聞いてた」
「・・・・楽しくなったか?」
「ううん、楽しいよ」
「・・・・・・・・・・・・楽しくなかったらいえよ、俺、あんま人の気持とかわかんねぇから」
「ううん。だいじょーぶ。気にしないで?」

私が笑うと、ポンポン、と頭を優しく叩いてくれる。手はつながなくても、キスはしなくても、こうやって
優しくされるとなんだか安心する。デートは出来なくても、一緒にいるだけでいい。そう、思っている。りょ
ーちゃんは話す事がなくなったのか、あー、とか、うー、とかいって、私を再度みた。

「お前、なんか楽しい話あるか?」
「・・・・・・・うーん・・・・ない」
「よな、俺もなくなったし」
「うーん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あのさ、」
「ん?」
「今度の日曜、部活が久々に休みになりそう、なんだよな」
「・・・え?」
「あー・・・それで、どっかでかけねぇ?二人で、その、デートっつーか・・・」
「・・・いいの?」
「・・・おう」

なんとも願ったりかなったりだ。さっきデートは出来なくても一緒にいれればいい、と健気な事を思った私に
対する神からの祝福だと思う。まぁソレは考えすぎだとしても、今までデートする暇もなく、デートを企画し
ても跡部というテニス部部長に邪魔され続けていて・・。あれ?今回、まさかそういうことはないよね?

「あ、のさ。今回もまた、前日とか、その日の朝に、部活が入ったー、ってなること、ない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー、可能性はあるな」
「・・・・・・やっぱり」

跡部はどれだけ私が嫌いなんだ。跡部は私を見ると、鼻で笑ってくる。フン、と笑ってくる。あの態度、私は
キライだ。だーいっきらいだ。なんでアイツがモテるのかがわからない。にしては、私の友達はみんな跡部ファ
ンだったりする。うーむ。世の中フシギだ。所詮世の中金と顔ってやつか。あ、でも私は顔も金も跡部に適わ
ないりょーちゃんがダイスキだけど。くっそー、あの跡部のやろう。いつもいつも私とりょーちゃんのデート
を邪魔しやがって。そしたらりょーちゃんが、でも、と付け加えた。

「日曜日、たとえ部活入っても、俺、休むし」
「・・・・・・・・・・え?」
「だっていつも部活あってお前といることなんかできねーし。これを逃すと夏季大会が始まるからもう絶対休
 めねーし、休みになんねーし。だったら行ける時や、休めるときに行ったほうがいいだろ」
「・・・・・・・・・・・まあ、そう、なんだけどさ」
「・・・・・・・嬉しく、ねーのか?」

いや、嬉しくないわけがない。とても嬉しい。でも、でもね。

私はりょーちゃんに部活を休んでほしくなかったの。

だってりょーちゃんは部活をとても大切に思ってるから。りょーちゃんはテニスが大好きで、テニス部に入っ
て。頑張って、頑張って、レギュラーになって。そんなりょーちゃんを私はずっと応援してきたの。そんなりょ
ーちゃんが大好きなの。だから、たとえ私が寂しくても、部活なんて休んでほしくなかった。

「私、りょーちゃんの部活すきだよ」
「・・・・・・・・・?」
「りょーちゃんの部活すきだよ。だから、休まなくていい。っていうか休まないで!」
「・・・だってよ、デートとかできねーと寂しいだろ?」
「寂しいけど、我慢できるもん。りょーちゃん部活大好きなんでしょ!?私はりょーちゃんが部活している姿
 が一番すきなの。一番格好いいとおもうの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・あー・・・お前はなんでそう、こっぱずかしいセリフを次から次へと・・・」
「・・・め、迷惑だった?」
「・・・・・・・・・・あー、じゃなくて・・・サンキュ、嬉しいぜ」
「・・・・・・・うんっ!」

私が笑うと、りょーちゃんは顔を赤くしてそっぽを向いた。こんなりょーちゃんもかわいい。やっぱり私はりょ
ーちゃんが一番すきだ。りょーちゃんが彼氏でよかった。本当に大好きだ。すると、右手にぬくもりを感じた。
温かい、ぬくもり。りょーちゃんの、ぬくもり。りょーちゃんが私に手をつないでくれた。ヤバイ、私の顔も
赤くなる。りょーちゃんは更に顔を赤くしてそっぽを向いている。でも、握られた手は、暖かい。それから少
しだけ手を動かして、手と手を絡ませる。俗に言う、恋人つなぎ。ちょっと恥ずかしくて、でも嬉しくて、

「へへっ」
「・・・・なんだよ」
「りょーちゃん、私、りょーちゃん大好きっ」
「・・・・・・・・・・・おう」

繋がった手。

まだキスもなんもしてないけど。今、ここに手が繋がってる。それだけで幸せに思える。
りょーちゃんは更に顔を赤くさせていたけど、もう前を向いていた。ただ、さっきより、ぎゅっって強く握
ってくれた。




愛しいアナタと繋がった手のひら。

コレは私とアナタの愛の証。








いとしいのひら






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初めまして、黒姫夏優と申します。
提出期限ギリギリ、申し訳ありませんでした。汗
宍戸くんはウブだと思います。こんな関係が大好きです。
この企画様に参加できた事をとても嬉しく思います。ありがとうございました。