「仁王、これちょーだい」
「30円ナリ」
「ケチ、金とんの?」
「当たり前じゃ」

仕方ないなあ、とお金を出そうとすれば、冗談じゃよ、と言われる。なんなんだ
この詐欺師。お前いっそつかまっちまえ。そんなことを思いながら、ガムを一枚
いただく。

「ん・・これ、何味?」
「わからん」
「わかんないのかよ・・・」

わかんないのに食べてるのか。相変わらずフシギなヤツだな、仁王雅治。仁王は
私の隣の席である。立海はテニスが強い(らしい)。そのうちのレギュラー(ら
しい)仁王は、女の子にかなりモテる。私にとって、好きか嫌いかときかれれば
、まあ好きなんじゃない?と答えるぐらいだけど、そこまでキャーキャーは騒が
ない。

「ねえ仁王」
「なんじゃ」
「数学わかる?」
「人並みには」
「ちょっと教えてくれない?私ちょっとわかんない」
「人に教えるほど才能はもってないぜよ・・・プリッ」
「ちょっとプリウザイ。・・・頭いいくせに」

頭いいくせに、ちょっとずるい。私と仁王は一番後ろの席で、黒板も見えにくい。
特に私は視力が悪いから、ヤバイ。でも仁王も眼が悪いらしくメガネを掛けている。
伊達メガネじゃないよな?(どっかの氷帝の人は伊達メガネだってきいた)ちなみ
にメガネかけてる仁王っていつもより三割り増しぐらいでエロいと思う。周りにも
エロいと人気だ。っていうか、周りの視線が仁王に集中してる気がする。いや、気
じゃない。絶対だ。つまり、殆どの女子生徒が後ろをチラチラと見てるわけだ。

「ニオ、視線が痛いよ」
「俺がモテる証拠じゃのお」
「ナルシストですか」
「男はみんなそんなモンじゃ」
「普通いいませんて、そんなセリフ」

まったくもって不愉快だ。ガムをくちゃくちゃと食いながら、黒板をむきながら、
誰にもバレることがないように器用に私と話してる。っていうか授業中にガム食っ
てていいのか。いや、私もだけど。バレたら怒られるんじゃないのか。いや、私も
だけどね。

「次・・仁王、この問題といてみなさい」

いきなり何の脈略も無く、仁王が数学教師に当てられる。あー、きっとこの先生、
女子の視線が殆ど全員仁王に向かってるからイラついたんだな。確かこの先生はそ
ういう性格だった気もする。っていうかその問題ってさっき説明した問題と違うじゃ
ないですか。明らかに黒板に書いてある問題は、さっきまであの先生が説明してい
たヤツと違うじゃないですか。すると仁王はニヤ、と笑って席を立ち、黒板の方に
歩いていく。

「こんな簡単な問題を俺に解かせるんか?」

そんなことをいいながらサラサラとチョークで黒板に答えを書いていく。長い長
い数式を書き終わり、チョークを先生に渡す。

「間違ってはおらんよなあ?」

ニヤニヤと笑う仁王は本当にいやらしい。でもその仁王の何所がいいのか、女子
達はその笑いにキャー!と歓声を上げる。うーん、どこがいいか全くわからない。
本当にわからない。仁王は呆然する教師を置いてニヤニヤしながら自分の席へと
戻ってくる。

「どうじゃ?天才的?」
「丸井君の真似したって面白くないから」
「つれないのぉ、で?感想は?」
「感想?」
「感想じゃ、俺に惚れたかの?」
「惚れない惚れない、ちょっといやらしかったよ、あの笑い」
「狙ったんじゃよ」
「なんのために」
「お前のために」
「・・・・・・・・・・・・・は?」

意味がわからない。本当に意味がわからない。仁王はまだニヤニヤしてる。だか
らその笑みはいやらしいって。

「ガム」
「え?」
「味、まだあるかの?」
「あー・・・そういや、もうないかな」
「じゃあもう一個あげるぜよ、机くっつけんしゃい」
「なんでくっつける必要がある」
「バレたら困るじゃろ」
「さっきは普通にもらったから」
「ええんじゃ、つけんしゃい」
「・・・なんだよ、もー」

仕方なく仁王の机に私の机をくっつける。仁王が一瞬ニヤリと笑った気がした。
っていうか、笑った。仁王は新しいガムを自分の口に放り込んだ。

「ちょ・・・!私にくれるんじゃなかったの!?」
「あげるぜよ?」
「は?意味わかんな・・」

言葉は途中で遮られた。私が横向いた瞬間、仁王は私にキスしてた。ちなみに、
ちゃんと教科書で隠していた。っていうか、なんていうか、口移しでガムが口内
に入ってくる。

「・・・・っ」
「ほい、あげた」
「ちょ・・・!何すんの!」
「大声あげるとバレるぜよ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ・・・仁王っ」
「上手いじゃろ?ガム」
「あーもう・・・なんなんだよー!」


ガムは辛いはずなのに甘かった。





口付けと