「太ると思う」
「ちょっと黙ってろぃ」

お昼の時間、なぜか一緒に食べる事が恒例となった私とブン太は、屋上で二人っきりで
食べている。この屋上は普段空いてないけどどっかの詐欺師さんが私とブン太に(売っ
て)くれた鍵で私たちだけ入れることが出来る。そこでご飯を食べる事はもはや日常と
なっていた。

「ってうかむしろそれ、お昼ご飯じゃない」
「なにいってんだよ、昼ごはんだっつの」

いやいや、むしろ違う。むしろありえない。チョココロネになんかフルーツがいっぱい
のかってるやつ、アップルパイ、チョコデニッシュ、そしておやつ(おやつ?)にプリ
ン。甘いものばかりで太らないのか。いやもう既に太ってる(あ、禁句か)

「っていうかお前はそれで足りるのかよ?」
「ごめん、超足りてるから」
「栄養失調になるぞ」
「ごめん、ブン太のがなると思う」
「ケンカ売ってんのか」
「ごめん、本当の事しかゆってない」

そんな甘いものばっかり食べてて、ちゃんと野菜も食べなきゃダメだと思う。いっそ今
度野菜がいっぱい入ってる、むしろ野菜しか入ってないお弁当作ってきてやろうか。そ
うブン太にいったら、

「野菜しか入ってない弁当は勘弁だけど、お前の弁当なら食うぜ」
「甘いものなんていれないからね」
「なんだよそれ、拷問か」
「いやいや、拷問じゃないっていうかアンタが食べすぎるの!」

チョココロネ没収!といってチョココロネを取り上げる。途端に、あーっ!と大きな声
をだして、私からチョココロネを取り返す。

「なにすんだよ!」
「だって体調悪くなるよ」
「俺の体調管理は俺でできる!」
「糖尿病になっても知らないよ?」
「俺はそんなモンになんねえ!」
「わかんないじゃん、未来の事は」
「ケンカ売ってんのか?」
「だから、心配してるだけだって」

なんでわかんないかなあ、と呟いたら、ブン太は少し落ち着きを取り戻したようで、チ
ョココロネを床に置いた。そして少し考えたように腕組みをして、そうだ、と何かを思
いついたように拳を手の上にポン、とした(ありきたりだな)

「じゃあお前弁当作ってこいよ」
「それさっきもいったからね」
「じゃなく、野菜だけじゃなく、普通の弁当」
「・・・は?」
「だから、今お前が食べてるような弁当。あ、でもその量の二倍な?」
「え・・・、は?」
「あーもう、お前バカだな。だからそーゆー普通の弁当作ってきてくれっていってんだ
 ろぃ?そしたら俺も食生活ちゃんとなるし、お前の美味い弁当が食べれる。一石二鳥
 !」
「あー・・・うん、私の弁当美味くないけどね」
「いや、さっき味見したけど美味かったぜぃ?」
「いつ味見したのよ。ってか勝手にすんな」
「いいだろぃ。で、美味かった。一石二鳥」
「・・・私の手間が増えるじゃん」
「嫌なのかよ?一個作るのも二個作るのも同じだろぃ?」
「作ってもらう立場でそれかよ、まあいいけど」
「やった、じゃあ明日な!」
「はいはい」

何がそんなに嬉しいのだろう。というかいつのまに私の弁当のおかずを取ったのだろう。
ブン太はニコニコしながらチョココロネをくってる(やっぱり食べるんだ)その様子を
ジーッとみていた私に気づいたのか、

「なんだよ、もしかしてお前も食いたかったのか?」
「いや、ううん、全然ちがう」
「なんだよ、遠慮しないでいえよな」
「いや、だからね、全然違うからね」
「ったくよ」
「ちょっとちょっと人の話しきいてる?」

私の話しなんてまったく耳に入ってないようなブン太は、仕方ねえな、といって私のネ
クタイを引っ張った。は?と思った瞬間に当たる唇。そして舌が私の口内に入っていく。
それと同時に感じる、甘い甘いチョコの味。

「ちょっ・・なにするっ・・」

離した時、多分私の顔は真っ赤だっただろう。それに比べてブン太はそんな表情見せず
に、

「もう食い終わっちまったからアレだけど、ちゃんと味は残ってただろぃ?」
「そういう問題じゃ・・・!」
「明日はお前の手作り料理、お前の味ってな。だから今日は俺を味わっとけ」
「ちょ・・・ブン太!?」
「あ、仁王からメールだ。やべ、真田から呼び出しだって。ワリ、鍵しめといてくんね
 え?俺先いくわ」
「は!?」
「じゃーな、明日、弁当よろしく!あ、メールするぜい!」

とかなんとかいいながらダッシュで屋上から出て行ってしまっていた。それを呆然と見
送る私。もう何がなんだかわからない。私ははあ、とため息をついて、さっきの事を思
い返して、また顔が熱くなった。それと同時に、明日の事を考える。




明日のブン太の口内は、私の味なんだ。








彼のはチョコの味