私と彼はどんな関係なんだろう?

言葉で表すのは、ちょっと難しい気がする。




「おい。ノート提出だってよ」
「・・へえー・・珍しいね宍戸がノート提出なんていうなんて」
「バカかお前。その真意に気づけ、真意に」
「あーハイハイ、私ちゃんとやってきてあるよ。ホラ、私偉いから」
「すげー偉い、すげー偉い、だから見せろ」
「今超棒読みだったよね?そんな失礼な人には貸してなんてあげないんだから」
「ワリィワリィ、頼む!お願いします様!」
「・・・・・・・仕方ないわね」

フン、といってカバンからノートを取り出した。笑って、サンキュ、という姿は格好いい、気がする。

彼、宍戸亮とは中学校でずっと同じクラスだった。この大規模な氷帝学園でずっと同じクラスなんて珍
しい。っていうか宍戸だけかもしれない。だから自然と喋るようになるし、多分私の中では一番仲のい
い男子の部類に入るだろう。それでも、それでも、まだ。

何か、足りない。

彼はうちの学校で一番人気のある男子テニス部レギュラーである。男テニはかなり人気あり、ファンク
ラブが出来ているほどだ。そして、やっぱりこの男も、モテたりするのである。でも宍戸はモテるため
にやってるわけでもないし、テニスが大好きだって、よくわかってる。だから私は宍戸が好きなんだし。
あ、いろんな意味で。いろんな意味だから、友達だか恋愛だかわからない。ただ、失いたくはない人な
のだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボーイフレンド、ってカンジなのかな?」
「あ?何いってんだお前」
「え?いや別に」
「なんだよお前、彼氏欲しいのかよ?」
「は?彼氏?なにが?」
「だって普通“ボーイフレンド”って彼氏のことだろ?」
「はい?宍戸そこまで馬鹿だった?直訳すると“男の子の友達”じゃない」

宍戸は必死にノートを写している手を止め私を見た。ボーイフレンド、たとえればいろいろな意味があ
る。直訳すると“男の子の友達”だけど、“彼氏”って思ってる人もいるんじゃないか。宍戸はどうや
ら後者だったらしい。

「・・で、何がボーイフレンドなんだよ?」
「んー・・私と宍戸の関係?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「ホラ、私たちってよく話すじゃん?私宍戸ほどよく話す男子いないし。だから、ボーイフレンドかな、
 って」
「・・・ま、そういやそーだな」

宍戸はちょっと私を見てからまたノートをうつしだした。否定しない、まあいいんだけど。実際そうだ
し。ただ、“友達”という事実を否定して欲しかったのも事実で、でも否定されたら何て答えていいか
わからなかった。“友達じゃない”といわれたらなんなのか。スキ?それとも友達とも思っていないよ
うな存在?考えれば考えるだけ、喜んだり悲しんだりする自分がいる。スキ、といわれたら嬉しい。そ
れがどんな言葉であっても、私が宍戸に対する思いはどんな種類であっても“スキ”なのだから。それ
がまだ友情か恋愛かなんて、わからないだけ。わからない、わかりたくない。もしわかったら、何か変
ってしまうかもしれないから。ふと、宍戸のノートを見ると汚い字で私のノートと同じ事が書いてある。
それが、ふと嬉しくなる。もちろん誰のノートでもみんな内容は同じ。だから別に、私とだけ一緒なわ
けじゃないのに。なんとなく、私のを写しているという事実が、私のと同じという事実が、どうしよう
もなく嬉しい。そんな私の視線に気づいたのか、なんだよ、と声を掛けてくる宍戸。

「ううーん、なんでもない」
「おかしなヤツ」
「そう?それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」

少し笑って、またノートを書き始める。シャーペンを持つ大きな手。傷だらけの腕。凛々しいカオ。私
の近くにいることが嬉しくて、ドキドキする。この感情は、何?

「うっし!終わった!」
「お疲れー」
「じゃあノート提出に行こうぜ」
「え?係りが集めるんじゃないの?」
「俺が係りなんだよ」
「あれ?宍戸体育委員だよね?」
「強制的にこっちもやらされてんだよ。お前係り決めのとき自分のが決まってたからって寝てただろ」
「うん、まあ」
「だからだよ、バーカ」

私のオデコにデコピンをする宍戸。イタッ、といって、乙女のカオになにするんだ、と呟いて、宍戸が
笑った。どうしてこんなに宍戸が笑うと嬉しいんだろう。どうしてこんなに宍戸の近くにいれることが
嬉しいんだろう。でもバカは余計だバカ。宍戸は教室に聞こえるように、英語のノート提出だから出せ
るやつは出せ、といった。みんなは文句をいいながら宍戸の前に英語のノートを置いていく。まったく、
自分はやってなかったくせに、自分がやり終わってからいうなんてなんて都合のイイヤツ。でもそれは
やっぱり部活で忙しいから仕方ないのかもしれない、とも思う。部活が忙しいからノートをまとめる時
間なんかないのかもしれない。だったらそれは他の人にも言えることだろうけど、宍戸は人一倍頑張
ってるから、そう思う。

「じゃ、お前そっち持てよ」
「・・・はい?」
「提出しに行くっていったろ?」
「え?だって宍戸が係りだからでしょ?」
「おうよ」
「じゃあなんで私が行く必要あるの?」
「お前これを俺に一人で持てっていうのかよ」
「宍戸男の子だから出来るでしょ」
「出来るけどあぶねーだろ、ちょっとは手伝えよ」
「こんなか弱い女の子に重たいものを持たせる気?」
「お前の何処がか弱いんだよ、しかもそんなに重たくねぇハズだぜ。俺こっち持つから、お前そっち持
 てよ」

よく見れば、その量は歴然としている。私は宍戸の4分の1ぐらいの量だ。40人くらいの4分の1だから、
私は10冊ぐらい。全然重たくない。でもそれくらいなら宍戸は持ち運べるんじゃないだろうか。そんな
ことを考えているうちに、おら行くぞ、と声をかけられ、渋々とついていく。

「おーもーいっ」
「かわいくねぇ」
「ウザイ」
「ウザくて結構」
「っていうかか弱い子にこんな重いものをもたせて・・」
「だからか弱くねぇだろ、いい加減認めろ」
「女の子はみんなか弱いんだよ?」
「んなこといったら跡部のファンクラブの連中はどう説明すんだよ。アイツ等すげぇぜ?跡部の持ち物
 ならなんだって持ってみせる」

たとえダンベルでもな、と笑う宍戸。私は跡部のファンなんかじゃないし、か弱いし。いやか弱くない
けどね。っていうか別に重くなんてないのだ、ただ言ってみただけなのだ。そして、この空間がちょっ
と嬉しい。職員室の前まできて、さて、困った。

、お前あけれるか?」
「うん、無理だね」
「・・仕方ねぇな、お前ソレ俺の持ってる上にのせろ」
「は?」
「んでもってお前が開けろよ」
「・・・・・・・・・・宍戸にしては頭いいね?」
「それ褒めてるよな?」
「うんうん、超褒めてる」

アハハ、と笑う私は遠慮なく宍戸のノートの上に私の持っているノートを重ねた。おっ、という声をあ
げた宍戸に、根性なし、と笑ってみせる。ウソ、根性があることは知ってるよ。職員室のドアをコンコ
ン、と叩き、ガラッ、とドアを開けた。

「しっつれーしまーっす」
「お前もう少しおしとやかにいえよ」
「うっさいなあ」

宍戸の文句を返しながら担当の教科の先生のところまでいく。宍戸が40人分ぐらいのノートをドサッ、
と置いた。

「もうちょっとかろやかにできないの?」
「かろやかってなんだよ」
「こう、なんていうか、その、かろやかに」
「意味わかんねぇって」

宍戸が笑う。私も笑う。なんとなく嬉しくなる。────と、それをみていたその担当教師が聞いてくる。

「お前等付き合ってるのかぁ?」
「「は?」」
「お前等いつも仲いいじゃないか。先生はうれしーぞー」
「先生、もう酔ってます?」
「仕事中の飲酒は禁止ッスよ」

訳は何ふざけたこといってんだよこのバカ教師、だと思う。いや宍戸はそう思ってなくても私はその思
いをこめていったからね。付き合ってなんか、ない。私の中では特別な存在だけれども。すると、その
隣の席に座っている私達の担任が口を挟んでくる。

「でもお前等、仲いいよな」
「そうですか?」
「だって宍戸は女子と話すのぐらいなもんだろ?も宍戸ぐらいだろ?男子で話すの」
「まあ、そうッスけど」

あ、そういえば宍戸って私以外の女子とあまり話すのを見ない。でもそれってどういう意味なんだろう。
唯単に私が話しやすいから?男の子っぽいから?いやいや、私そこまで男の子っぽかったっけ?あ、違
うや。唯単に“ずっと同じクラスだったから”だ。あぁ、そうだそうだ。あれ?なんでだろう。そう思
うと、悲しくなってくる。悲しい、寂しい。きっと私は宍戸にとってそんな存在。考え出したら止まら
ない、私の悪いクセだと思う。嫌だ嫌だ。考えたくない。

「・・・・・・・・・おい、?」

宍戸が私の変化に気づいて顔を覗き込む。やめてよ、やめて。今宍戸の顔なんてみたくないの。こっち
みないでよ、バカ。もうヤダ。本気でヤダ。バカみたいじゃない。こんなの。

「あ、私トイレにいってきます」

そういって、職員室から飛び出した。ああ、もっとマシな理由がなかったのか私。例えば職員室がクー
ラーのききすぎて寒いとか。バカだな私。バカバカ。凄くバカ。でもそこまで考える余裕がなかったの
も確か。一刻も早く、宍戸のそばから逃げ出したかった。また、落ち着いたら宍戸に会えるとは思うけ
ど、考え出したら止まらない私の頭は、宍戸の顔を見るのを拒絶していた。

なんでこんなに苦しいの。なんでこんなに寂しいの。私の勝手な被害妄想なのに、別に友達としか思わ
れてなくてもしょうがないのに、友達とすら思われてなくても仕方ないのに。なんで、こんなに、胸が
チクチクするの。

これは、恋?

ああ、自覚したら止まらない。なんでずっと気づかなかったんだろう。そう、きっとこれは恋なのだ。離
れたくないのも、失いたくないのも、それはきっと恋だから。ああ、自分の気持に気づかないなんてどん
だけ鈍感なの私。バカみたい。本当に、バカみたい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・なに、やってんの私」

気づいたらよくサボりに来る、校舎裏の木の下。宍戸とよく来た、大切な場所。なんでこんなところにき
たんだろう。宍戸を思い出すだけなのに。そしてなんでコレが恋だと気づかなかったんだろう。こんなに
も近くにいたのに。もしかしたら友達が「恋だと気づくと昔みたいにいられない」といったからだろうか。
無意識に閉ざしたのだろうか。ああ、それにしてもバカだ。なんであんなときに気づくんだろう。ってい
うかキッカケは私の被害妄想。まだそうだと決まったわけではない。でも、そうじゃないと決まったわけ
でもなくて、ああ、混乱する。私が頭を抱えて座り込んだ、とき、

「お・・・いっ・・!」

聞きなれた声、それはさっきまで耳にしていた声であって、今一番聞きたくない声でもあった。なんで、
なんでソコにいるの。っていうか追いかけてきたの。そんなに息切らせて。何やってんのよバカ。何して
んのさバカ。なんで追ってきたのさ。

「・・どう、したんだよ、なんか、あったのか?」

息を切らしながらいう宍戸に私は思わず何も言えなくなってしまった。別に、ただの被害妄想。唯の想像。
それだけで勝手に傷ついて、近くにいたくなくて、あぁ本当にバカみたいだな私。もうバカとしかいいよう
がない、何がやりたいのかわからない。何がボーイフレンドだ。フレンドなんかじゃない、恋していたのは
私のほうじゃないか。宍戸はまっすぐ私を見ている。でも私はまっすぐ宍戸を見ることができない。

「なんかあったならいえよ、俺なんかしたか?」

喋ろうとしても、喋れない。何をいったらいいのかわからない。
ただ一つだけいえること、宍戸は悪くない。宍戸は悪くない。悪いのは私。勝手に、本当に勝手に想像して
傷ついて走ってきただけ。あぁ、もう本当にバカ。でも、宍戸は私をまっすぐ見て、心配そうに見て、ただ、
私の言葉を待っている。私はどうすればいい?宍戸になんていえばいい?

「俺、なんかしたか?気づかないうちになんかしてたらワリィ」
「・・・なんも、してない」

やっと吐き出した言葉はその言葉。どんどん涙が溜まってくる。たまらないで、こらえて私。お願いだから。
宍戸に迷惑なんてかけたくない。宍戸の前で、泣きたくなんて、ない。しかも自分の妄想で。でも、もし
“友達”じゃなくて“唯のクラスが一緒なだけ”の存在だったら?考え出してとまらない。唯の勝手な想像
なのに、悪い方向に頭が考えてしまう。

「・・お前、本当になにもねぇのか?ウソつけ、すげぇ顔ゆがんでるぜ?」
「・・・ゆがんで、ないもん」
「ゆがんでるっつの、なんかあるならいえって」
「なんも、ないもん」

歪んでるのなんてしってる。でもそれは涙を我慢してるからで、歪ませたいわけじゃなくて。泣きたくない
だけで。宍戸はそんな私をみて、ため息をついた。そして私の元に歩いてくる。私は一瞬ビクついたけど、
そっから逃げれるわけでもなく、宍戸を見ていた。宍戸は、私の前までくると、ポン、と頭に手をおいて、

「悩み、あんならいえって」
「ない、もん」
「お前自分の顔見てねぇからわかんねぇかもしれねぇけど、すげぇ泣きそうで歪んでんだよ」
「・・・・・・・・・はげ」
「俺は髪きったけどハゲじゃねぇ」
「ばか」
「否定はしねぇけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私は、友達?」
「は?」
「わたしは、ともだち?」
「・・・・・いや、まぁ、友達?」
「・・・・・・・まぁ?」

まぁ、って、友達だけど友達じゃないみたいな、そんなカンジってこと?宍戸はそのニュアンスに気づいた
のか、そうじゃなくて、といいなおす。

「その、俺、な?」
「・・・・・・・・・・・・・なに、さ」
「いや、なんつーか」
「な、に、よ」

あーもう、と髪をくしゃくしゃする宍戸は、顔を真っ赤にさせて私に向き直る。え?と思った途端には、も
う怒鳴られていた。

「お前はいつもいつもそうやって俺のことを友達扱いしてよ!あーもう!俺が聞きてぇよ!俺はお前の友達
 かって!」 「は、はあ?何がいいたい・・・」
「だから、俺はお前が好きなんだよ!気づけバカ!」
「・・・え?」

私はビックリして、宍戸をみた。宍戸は顔を真っ赤にしていて、あー、とか、うー、とか声を出している。
とりあえず、少しは落ち着いたみたいで、

「お前、さ。きづかねぇかな?俺はお前以外、女子となんかはなさねぇんだよ」
「いや、それはしってる、けど」
「お前と以外、話すつもりなんてねぇんだよ」
「・・・・・何、それ」
「何、じゃねぇよ。ったく、なんで気づかねぇかな」
「だ、だって・・・」

じゃ、じゃぁ今まで私が思っていたことは全部勘違い?え?ってことはちょっと待って、これってもしや。

りょう、おもい?


「・・・はい」
「お前の返事はどうなんだよ」
「・・・・・・・・・わたし、は」

スキだよ。大好きだよ。さっき気づいたばっかりだけど、大好きなの。本気ですきなの。宍戸が一緒にいて
くれて楽しくて、本当に嬉しかったのに、私はなんだかわからなくて、大好きなのに恋愛だと気づかなくて、
気づかないふりしてて。それで、それで。気づいて、勝手に勘違いして。あぁ、もう私本当にバカだ。何し
てるんだろう。

「わたし、は」
「・・・・・・・・

出てくるな涙。お前は何泣きだこんちくしょう。嬉泣きでも、悲しいなきでもない。なんだろう。勝手に落
ちてくる。宍戸は困ったように私を見て、頭に手をおく。

「無理しなくていいから、悪かったな」
「ちが・・う・・」
「・・・え?」
「わたし、ししどが、すき」
「・・・え・・オイ・・・?」
「すきなの」

すきだから、すきなんだよ、バカ。と一気にいうと、宍戸は更に顔を真っ赤にさせて、私を抱きしめた。な
んだよバカ恥ずかしいじゃんか。でも、ちょっと嬉しい自分もいて、なんか、なんか、あ、ヤバイ。どうし
よう。大好きが止まらない。

「あー・・・なんか、俺、すげぇ幸せかも」
「・・・・・・・・・・・・私も、幸せ、かも」

宍戸は私をぎゅっと抱きしめたまま、笑っていた。だから、私も笑っていた。だってなんか幸せだったし。
嬉しかったし。やっぱり、恋愛ってこういうもんなんだね、なんて。



ボーイフレンドが、彼氏になりました。








ボーイレンド







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初めまして、黒姫夏優です。
参加させていただきありがとうございます。遅くなりまして、すいません汗
最後の方が本当雑になってしまい・・・ああ、本当にすいません。
でもとても楽しく書かせていただきました。私も宍戸みたいな彼氏がほしいです笑 では、本当にありがとうございました。